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少女探偵の源流はそもそもどこなのか問題3

今回はこちらの続き的な記事です。

少女探偵について調べていて、ある程度情報を仕入れていると大きな問題にぶつかりました。「日本の作家が書(描)いた、一番最初に有名になった少女探偵は誰だろう?」という問題です。
必ずしも現時点の少女探偵の源流である必要はありません。一番最初に有名になったのは誰かということです。

これ、実はものすごく大変なんです。有名というのは要するに「そのジャンルのファンでなくても知っている」状態です。そして戦前の少女向け雑誌は「都市部の一定以上経済的に豊かな、しかも娘にそういう雑誌を買い与えるくらい教育熱心で、かつ娯楽を含んだ雑誌も買ってあげる親がいる」十代の女性がメインターゲットです。もちろん十代の勤労女性が読む雑誌もありますが、割とターゲット層が分断してしまっているのです。そこにプラスして『少女探偵もの』となると、相当ニッチなものになると思います。

漫画でもそうですが、やはり児童向けの作品の流行の場合、女子しか好まないタイプのジャンル、作品以外は男子向けでのヒットの後追いになることが多いです。探偵小説も例に漏れないようです。
女子向けで男子向けより早くヒット作品が出ていれば、それは必ず話題になっただろうと思われます。

そして昔は今よりもずっとエンタメの性別での棲み分けがはっきりとしています。今は女子読者は男子向けと言われている作品に手を出すことに全く抵抗がないですが、男子の方にはまだハードルがあります。戦前戦後あたりの場合、男子しか読まない冒険活劇などを女子が抵抗なく読んでいたという話はあまり知りません。
そもそも当時の場合「女子は本とか読むな」という圧はかなり強く、同じ家族でも男子には与えられる本が女子には禁じられているなどもよくありました。(ただし、男子にも本が気軽に与えられていたかというと微妙なところがあり、男女問わず子供に本を読ませたがらない親、大人というのは割といます。これは現代でもそうです)

ちょっと調べるだけで、この壁は思ったよりも分厚く「有名な少女向け探偵小説自体がそもそも出づらくないか?」という予想が立ちつつあります。とりあえず「少女探偵ものが少女雑誌に出ていても、ユーザーの数がヒットというほど周辺ジャンルに出てこないっぽい」という印象までで今回はとどめます。
このへんについてはもうしばらく掘ってみたいと思います。多分少女雑誌や、少女雑誌のヒット作家のメディアミックス(当時だとラジオドラマ化、舞台化、映画化まででしょうか)を調べる必要がありそうです。気が遠くなってきました。

では、他の方から進めてみましょう。
まず少女探偵に繋がる源流としては、まず少年探偵です。江戸川乱歩の『少年探偵団』のヒットが凄まじい影響を与えています。前回の年表に『少年探偵団』関係の情報を追記したものを貼ります。
今回は少年探偵団関係の映画情報も含めています。そして前回扱った仁木悦子『猫は知っていた』映画情報も追記します。

そして少年探偵団ブームによって少年探偵ものの漫画ブームが来ました。そのヒット作の何作かと、少年探偵団シリーズのコミカライズ作品についても追記します。

1936(昭和11)年 江戸川乱歩『怪人二十面相』連載開始。(少年探偵団シリーズ第一作)
1937(昭和12)年 江戸川乱歩『少年探偵団』連載開始。
1938(昭和13)年 江戸川乱歩『妖怪博士』連載開始。
1939(昭和14)年 江戸川乱歩『大金塊』連載開始。(この後戦後まで少年探偵団シリーズは出ず)
1941(昭和16)年 太平洋戦争勃発。
1945(昭和20)年 ポツダム宣言受諾。 
1949(昭和24)年 江戸川乱歩『青銅の魔人』連載開始。(少年探偵団シリーズ再開)少年探偵ブームの始まり。
1949(昭和24)年 江戸川乱歩『青銅の魔人』発売。

1951(昭和26)年 小野寺秋風『探偵タン子ちゃん』『探偵テイ子ちゃん』連載。
1952(昭和27)年 西條八十『あらしの白ばと』連載開始。
1954(昭和29)年 手塚治虫『ケン1探偵長』連載開始。
1954(昭和29)年 河島 光広『ビリーパック』連載開始。
1954(昭和29)年 松竹『怪人二十面相・三部作』映画公開。(12月3日)
1954(昭和29)年 松竹『名探偵明智小五郎シリーズ 青銅の魔人 第一部』映画公開。(12月29日)
1955(昭和30)年 松竹『名探偵明智小五郎シリーズ 青銅の魔人 第二部』映画公開。(1月3日)
1955(昭和30)年 松竹『名探偵明智小五郎シリーズ 青銅の魔人 第三部』映画公開。(1月9日)
1955(昭和30)年 松竹『名探偵明智小五郎シリーズ 青銅の魔人 第四部』映画公開。(1月15日)
1955(昭和30)年 畠山一夫『青銅の魔人』連載開始。(少年探偵団初のコミカライズ)

1956(昭和31)年 西條八十『あらしの白鳩』刊行。
1956(昭和31)年 C.キーン『楽譜の秘密』『秘密の階段』『不思議な手紙』刊行。
1957(昭和32)年 江戸川乱歩『妖人ゴング』連載開始。(少年探偵団シリーズに、少女探偵花崎マユミ初登場)
1957(昭和32)年 江戸川乱歩『魔法人形』連載開始。(花崎マユミ登場。少年探偵団シリーズ初の少女雑誌連載)
1957(昭和32)年 桑田次郎『まぼろし探偵』連載開始。(連載開始時のタイトルは『少年探偵王』)

1957(昭和32)年 手塚治虫『こけし探偵局』連載開始。
1957(昭和32)年 仁木悦子『猫は知っていた』刊行。
1958(昭和33)年 江戸川乱歩『夜光人間』連載開始。(花崎マユミ登場)
1958(昭和33)年 江戸川乱歩『塔上の奇術師』連載開始。(花崎マユミ登場)
1958(昭和33)年 大映『猫は知っていた』映画公開。

1958(昭和33)年 鈴木光明『もも子探偵長』連載開始。U・マイア『くらやみの天使』連載開始。
1959(昭和34)年 ラジオドラマ『まぼろし探偵』放送開始。
1959(昭和34)年 武内つなよし『少年ジェット』連載開始。
1959(昭和34)年 テレビドラマ『少年ジェット』放映開始。
1959(昭和34)年 ラジオドラマ『まぼろし探偵』放送開始。

1962(昭和37)年 キーン『古い柱時計の秘密』、サットン『仮装舞踏会の秘密』、ブランク『秘密の地図』刊行。
1965(昭和40)年 山田節子、さいとうゆずる『ガールガール』No.1刊行。
1967(昭和42)年 高階良子『ミッキーの顔役』刊行。
1973(昭和48)年 テレビドラマ『猫は知っていた』放映。
1983(昭和61)年 野間美由紀『パズルゲーム☆はいすくーる』note1『ミステリ研最初の事件』掲載。
1984(昭和62)年 佐伯かよの『燁姫』連載開始。
1985(昭和63)年 松本洋子『すくらんぶる同盟』連載開始。

前回までのデータは細い線で表示されていますが、一気にリストが黒くなりました。衝撃です。一応リストに加えましたが『少年ジェット』『まぼろし探偵』はミステリというよりはパワフルな小道具などを使ったSF冒険活劇と言った方がいい展開ですが、そこも含めて『名探偵コナン』などの流れに到達しているような気がします。(少年誌での探偵漫画についてはまた今後追記する回を設けたいと思います)

こうして時系列を並べてみて、『一番最初に有名になった少女探偵』に該当するのは、1957(昭和32)年『妖人ゴング』に初出の、少年探偵団の花崎マユミだろうと思われます。

追記。少年探偵団を原作、原案とした作品に登場する花崎マユミをチェックしてみました。ざっくり探したところニンテンドーDSのゲーム『江戸川乱歩の怪人二十面相DS』(2008年12月18日、タカラトミー)と、ショートアニメ『超・少年探偵団NEO』(2017年1月より3月、TOKYO MX)に花崎マユミが登場しているのを発見しました。(まだあるかもしれません。なおYouTubeの動画は公式のものがなかったので、キャラデザの確認上非公式の動画を貼っています。ご容赦ください)
ただ、マユミがメインで登場する小説『塔上の奇術師』以外ではあまり重要ではない脇役なので、彼女が登場する既読作品『妖人ゴング』『魔法人形』『塔上の奇術師』よりもアレンジが強めの印象があります。

マユミがメインで登場する『塔上の奇術師』は、小林少年にも見せ場はあるものの、少女雑誌連載二作目だったこともあって、ほぼマユミが主人公、少女探偵としての見せ場もあり、出てくるキャラクターも女子率高めの内容でした。
ただ、これ以降少女雑誌で少年探偵団は書かれていないので、江戸川乱歩作品で少女探偵の小説はこれだけの可能性が高いです。ご存じの方がいらしたら館山までご一報いただけると嬉しいです。
追記終了

追記。花崎マユミ情報追加です。
2018年公開の映画『BD〜明智探偵事務所〜』に前田希美さん演じる花崎マユミも登場しています。しかもヒロインです。

多分前田希美さんがほぼ間違いなく「初めてヒロインとして登場した花崎マユミ」ということになると思います。
追記終了

ただし『一番最初に有名になった少女探偵主人公』というと、時期的には『猫は知っていた』刊行の方が早いので、仁木兄妹シリーズの仁木悦子が一番早いのではないかという結論に達しました。
『猫は知っていた』は映画化、テレビドラマ化をしています。映画化は本の刊行から間もないので、作品が話題になった時のメディアミックスです。花崎マユミの登場する『妖人ゴング』『夜光人間』『魔法人形』『塔上の奇術師』は現時点では『魔法人形』の映画『聖なる蝶 赤い部屋』の情報を確認していますが、こちらは2021年の公開なので、この探偵ブームからのメディアミックスではありません。
現時点では仁木悦子が『一番最初に有名になった少女探偵』と思っていいように思います。

追記。映画版『猫は知っていた』ポスター画像を含む記事を発見しました。

追記終了

ただし花崎マユミ、仁木悦子の源流から後年の少女探偵に連なっているかどうかは未確認です。考えるだけで途方に暮れますがまた次回も掘ります。



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