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漫画の中の少女探偵についての備忘録(黎明期編)

『少女トラベルミステリ』のために日々「少女探偵とは何か」「女性主人公のトラベルミステリとは何か」みたいなものと対峙する館山ですが、その合間によく考えています。

「トラベルミステリの少女探偵ヒロインのルーツはどこなのか?」

今回はしばらく考えてみて「あ、ここじゃなかったけど重要なポイントなのでマイルストーン的に書いて残そう」という回です。ナンシー・ドルー関連を掘っていたのも動機は全く同じで、「流星子(星子ひとり旅シリーズ)や水谷麻衣子(幽霊事件シリーズ)が支持されたのは、どのルートが源流なのだろう?」という疑問からでした。

少女探偵が支持される流れとして考えられるルートはいくつもあります。あ、現実味があるかどうかという意味ではありません。ここはブレインストーミング的に「現実味があろうが何だろうがまずは出せ」のターンです。なので何でもそれっぽければ出します。ただし、少女向けトラベルミステリのヒットに間に合う条件のみに限ります。

ミス・マープルを始めとする海外古典ミステリの女性探偵役。
ナンシー・ドルーを始めとする英語圏の少女探偵。
江戸川乱歩などの国内の男児向け探偵ものの女児版へのニーズ。
戦前少女雑誌から少女漫画雑誌の黎明期の少女探偵ものへのニーズ。
今回はこの黎明期の少女漫画についてのチェックです。

少女漫画雑誌に掲載された少女探偵もので、最初期に出た著名作家はやっぱり手塚治虫先生です。他にもミステリ要素の高い作品を多く描いている手塚先生ですが、1957年になかよしで『こけし探偵局』を連載しています。(埋め込みは『こけし探偵局』収録の『あらしの妖精』です)

追記。
『こけし探偵局』以前に小野寺秋風先生が1951年に『探偵タン子ちゃん』『探偵テイ子ちゃん』『名探偵テイ子ちゃん』などの作品を発表しているようですが、未読なのでネットで確認できるスクショで、子供向けパズルなどを組み込んだ作品なのか探偵もののストーリー漫画なのか確認できていません。現時点では保留にさせてください。

同時期、1958年にりぼんで鈴木光明先生が『もも子探偵長』を連載、同年U・マイア(水野英子、石ノ森(当時は石森)章太郎、赤塚不二夫の共同名義で描かれた作品。多分ユニットM水野I石森A赤塚というペンネームだろうなと思います)の『くらやみの天使』も少女クラブに連載。少女探偵漫画が流行っていたんだろうと思います。

こうして見ていると「少女探偵もの、いっぱいあるんでは?」と期待を寄せたくなりますが、残念ながらそうでもありません。
ミステリ作品、ミステリ要素のある作品、サスペンスやミステリホラーも含めれば結構いろいろありますが、案外少女漫画でも少女探偵、少女が探偵役の作品は多くありません。少女向けの作品の場合、ヒロインは被害者、探偵役は男性というものが多いのです。
そもそもあまり謎解き要素も強くなく、雰囲気としては「可愛い女の子がちょっとした謎を解く」くらいの体感です。謎優先というよりは可愛い女の子と謎のセットという印象がありました。

この黎明期の少女探偵のキャラ造形、どの子もものすごく可愛くてキャッチーなので尚更そう思ったのかもしれません。

少女探偵(役)のヒロインを探している間に、資料として米沢嘉博『戦後少女マンガ史』を読み始め、面白い記述があるのに気が付きました。

おもしろいのは、そういったかわいい少女探偵たちは一様にミニスカートであり、ベレー帽をかぶったり、リボンをつけていたりすることだ(=図1)。活発で利巧な少女のステロタイプであろうか。

米沢嘉博『戦後少女マンガ史』第三章

この章で例に挙げられている『こけし探偵局』『もも子探偵長』のどちらもものすごくキャッチーで可愛いファッションデザインになっています。

やや時代は下りますが、1965年頃さいとうプロから刊行された山田節子、さいとうゆずるにより描かれたミステリ少女劇画誌『ガールガール』のダブルヒロインの一人、七森由岐もベレー帽姿のスカート姿です。ただし劇画のさいとうプロから刊行されただけあって、『ガールガール』は頭身が高くリアルっぽく、ポップなドラマみたいな印象のデザインです。もう一人の活発ヒロイン、八条路子は対照的なスキニーパンツ姿です。

追記
タイトルを『ガールガールミステリー』としておりましたが、正確な表記は『ガールガール』だと解りましたので変更しています。

『ガールガール』も含めて一連のデザインを見た時「これは『活発で利巧な少女のステロタイプ』というのとは違うのでは?」と思いました。どちらかというと魔法少女ものと近い意図があるような気がしました。

ミニスカート、リボン、ベレー帽、どれも「アクションシーン時に不細工に見えず、可愛さをキープできる」デザインです。そもそも動きやすくするならズボンはいた方がいいですし、リボンはむしろ邪魔、帽子も髪の毛をがっつり入れられた方が機能的です。ひらひらして可愛く、アクション時に乱れてみっともなくならない、かつ女の子らしいデザインということで生じたのではないかと思っています。

このあたりのデザインをその後踏襲しているのは、近年のミステリのヒロイン達よりも動くことが多く、可愛らしいコスチュームを求められる魔法少女の方が多いのだろうと思います。『カードキャプターさくら』あたりは黎明期の少女探偵ものにしたらどんな絵面になるか想像に難くありません。当時だったとしても絶対可愛いです。

ミステリ方面でこのヒロイン達のデザイン傾向を持っているのは『ひぐらしのなく頃に』の竜宮レナや、『虚構推理』の岩永琴子のようなアクション要素、ホラー要素などが強い作品で、アクション時の見映えこそが長らく踏襲されているのではないかと思いました。

一連の情報を追っていくととても面白かったのですが、どうも少女向けトラベルミステリの流れとは違う方へ向かっていったようです。次回は時代をもうしばらく下り、ミステリ要素が濃く、リアルになっていった流れを追いかけた記事を書こうと思います。

……それはともかく、少女漫画の少女探偵キャラ、どの子も容赦なく可愛いですよね。


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