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英国・・・イングランド・スコットランド・アイルランド・ウェールズのロックシーンについて Part12 Cabbage 『Amanita Pantherina』

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Cabbageは、2015年にマンチェスター郊外のモスリーにて結成された5人組バンドだ。

ボーカルのリー・ブロードベント、ギター/ボーカルのジョー・マーティン、ギタリストのイーガン・クリフォード、ベーシストのパトリック・ネヴィル、ドラマーのエイサ・モーリーの5人がメンバーだ。

バンドを結成する前、マーティンはパフォーマンス・ポエトリーとしてグレーター・マンチェスター地区を中心に活動していた。そのなかには「ディナーレディ」など、キャベッジの曲のベースとなった詩もあったという。

バンド5人は、2010年代前半にマンチェスターのバンドシーンで様々に活動を続けてきたバンドマン同士であり、Cabbageもそういった流れのなかで組まれたバンドだったというわけだ。なんだかこういうの聞くと、バンドを組むということが日本でもイギリスでも変わらないんだなぁという親近感が湧いてきそうだ。

そういったことも影響してだろうか、彼らは結成直後からマンチェスターの現地シーンでも盛り上がっていくことになる。イギリスでも著名なクラブDJであり、マンチェスター地元のローカルネットラジオ&ロックミュージックをフックアップする『XS Manchester』に参加しているClint Boonが積極的にサポートしたこともあり、わずか活動半年でエージェントと契約、BBCラジオでも彼らは注目されるようになる。

彼らが注目されたのは、やはりこの言葉を頼りにするイギリス人が多いからだろう、『音楽とサッカーの街、マンチェスター』だ。

Joy Division、New Order、The Smiths、The Stone Roses、Oasisを筆頭に、隣町のウィガンまで含めたてグレーター・マンチェスター地区としてみると、The Fall、Happy Mondays、Buzzcocks、808state、The Verve、The Charlatans、ELBOW、The Ting Tingsなどなど。これに加えて、マンチャスターのローカルシーンにもいるとなると、想像以上に盛りだくさんなのが分かるだろう。

いまの時代にピントを合わせれば、The 1975、Blossoms、Pale Wavesらに加わる。イギリスのロック史を彩る名所がゆえに、世界のロックリスナーから、同時にイギリス国内からもやはり注目は期待値が高いわけだ。

その期待を、歴史を背負うと受け取るものもいれば、自身には無駄な呪縛だと捉えるものもいる。有名な話だとThe 1975のマシューは後者のタイプだが、Cabbageはどちらだろうか。

Cabbage have mixed feelings about their home turf, aware that the city’s future cannot merely be based on its admittedly impressive history. “It’s dying from resting on its laurels,” moans Martin, who prefers the doomy, dark Manchester of Joy Division to the acid-house happy iteration of the Roses et al.
“We’re not claiming to be bastions of originality, but it doesn’t seem to take much effort to step away from the past. Manchester got that big, exploded, and the ashes are everywhere. Someone needs to blow the cobwebs off. You only have to walk down the street and see all the Liam Gallagher-alikes with their sideburns flapping in the wind to see it. It’s 20 years since Knebworth, and people are still talking about it. Tony Wilson said, ‘We do things differently here.’ That’s died a death.”

Cabbageは自分たちのホームグラウンドに対して複雑な感情を抱いており、この街の未来はただ単にその素晴らしい歴史に基づいているだけではないことを認識している。ローゼズなどのアシッドハウス的なハッピーな表現よりも、ジョイ・ディビジョンの陰鬱でダークなマンチェスターさを好むマーティンは、「この街は栄光に甘んじて死にかけている」と嘆く。

マーティン「ぼくたちはオリジナリティの砦だなんて言いたいわけではないけども、過去から離れるための努力は、それほど必要ではないみたいさ。マンチェスターがあんなに大きくなって、爆発して、その灰があちこちにあるんだ。誰かがモヤモヤを吹き飛ばしてくれないといけないんだよ、通りを歩いて、もみあげを風になびかせているリアム・ギャラガーのような人たちを見れば、それがわかるはず。Knebworthから20年が経ったけども(オアシスのネプワース公演が1996年。このインタビューは2016年に行なわれている)、人々はまだそのことを話している。トニー・ウィルソン(ファクトリー・レコーズの創立者の1人)は『ここではやり方が違う』と言っていたけども、それは死んだんだと思う。
https://www.theguardian.com/music/2016/aug/15/new-band-of-the-week-cabbage-no-115-butt-naked-political-truth-talking

アメリカのポップシーンでロックバンドへの求心力がグっと下がり、イギリスのシーンもその影響を受けていたなかで、彼らロックバンドの立場や気持ちは計り知れない。正直、複雑だろう。

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2016年にリリースした『Le Chou』。歌っている内容はイギリスのローカル感が強く押し出されている。パブが閉店すること、コミュニティが崩壊すること、リーがかつて働いていた薬物中毒者や再犯者を支援するボランティア団体などが政府の削減によって取り壊されること。めちゃくちゃ身近であり、日常生活に見えるところから彼らの声は生まれている。いまのイギリスで暮らしていこうとするリアリティ、悲しみ、怒りが混ざり合った言葉だ。

2017年、BMG Rights Managementと契約したかれらが発表したデビューアルバムが『Young, Dumb and Full of...』だ。2016年に発表した3枚のEPを1枚のアルバムにまとめあげて1枚にしあげた作品だ。

『User Capitalist Death Trade』『Necroflat in the palace』『Terrorist Symthesixzer』それぞれのEPにはテーマがあり、『戦争について』『ジミー・サヴィルについて』『シリアへの空爆を決定した英国への怒りについて』だ。3つのテーマをそれぞれに立てたコンセプト性を見れば分かるように、彼らの志向性はメッセージであることが分かるかと思う。

ジミー・サヴィル:BBCの長寿音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」初代司会者として人気だった司会者。2011年の死後に未成年者に強姦や性的虐待を繰り返していたこと発覚。100人以上の被害者がいるとも言われており、後にイギリスの芸能界全体への大規模調査が始まるきっかけになった。同じくイギリス王室とのプライベートな繋がりも指摘されてもいる

全体のレコーディングは、PJ Harveyのツアーメンバーでもあり、PixiesやThe Fallのレコーディングに参加したSimon "Ding" Archerがプロデュースを担当。3枚のEPはThe CoralのJames Skellyが設立したSkeleton Key Recordsから発売した。

We know we can only write about things we truly know about and it takes time to realise something that’s in front of your face. Surrealist fiction writers like Victoria Wood and Alan Bennett, they take something that everyone sees, that’s mundane to so many people and make the fact that they observe it, write it down and make it comical and that’s special because everyone sees it. Life’s so fast and it moves so quickly.
ジョー「自分が本当に知っていることについてしか書けないことを知っていますし、目の前にあるものに気づくには時間がかかります。ヴィクトリア・ウッドやアラン・ベネットのようなシュールレアリスムの小説家は、誰もが見ているもの、多くの人にとっては日常的なものを、それを観察し、書き留め、コミカルに表現していますし、誰もが見ているものだからこそ特別なんだ」
https://louderthanwar.com/cabbage-interview-ltw/
Do you think it’s easier to be dismissed or respected with such politically charged music ?
Well that depends wholly on whether the politically charged music is genuine and heartfelt. We have always repeated the mantra of only writing about what you truly know about, therefore it is genuine. All forms of art must be genuine and sincere, otherwise they become contrived and utterly meaningless.
このような政治色の強い音楽は、否定されたり尊敬されたりしやすいと思いますか?
それは、その政治色の強い音楽が純粋で心に響くものかどうかにかかっています。私たちは、「自分が本当に知っていることだけを書く、だからそれは本物だ」という信条を常に繰り返してきました。すべての芸術は本物であり、真摯なものでなければならず、そうでなければ作為的で全く意味のないものになってしまうのです。
https://www.skiddle.com/news/all/Cabbage-interview-Nihilistic-Glamour-Shots/53203/

過去の自分たちを1枚に仕上げることで、聴かれやすさは段違いに変わったろう。翌年の2018年、彼らは『Nihlistic Glamour Shots』を発表。フルレングスの初オリジナルアルバムとなった。

ここで一度落ち着いてみよう。というか、ここ2年ほどで考えうるUKロックシーンを冷静に考える部分だ。

一言で「ポストパンク」と形容するときに、いったいどんなバンドを思い浮かべるだろうか。

The Pop GroupとGang Of Fourを思い浮かべてみよう。

ほぼ同世代のポストパンク・レジェンドにして、なんだか似ているように感じる2組だが、その実サウンドの毛色は違う。

前者がギクシャクとしたアンサンブルとともにフリージャズやレゲエを志向し、ダブサウンドを生かした『ポスト・パンク(≒拡張されたパンク)』をこなしていた。

対照的に、後者はアンディ・ギルの金属音そのもののようなジャキジャキとしたギターサウンドと、8ビートに対して時にストレートに、時にひねくれた絡み合いをするベース&ドラムスが合わさったボトムサウンドがコアになっている。

8ビートに拘ったオリジナル・パンクのソレを、いかに崩していくか、いかにそぎ落とし、オリジナル性を出すべきか。それがポスト・パンクのコアだった。Talking HeadsやTHE CLASHがレゲエやアフロビートに接近したこと、エコーサウンドを効かせまくって名ギターリフを生み出し続けたU2やThe Smithsなどなども加わっていくだろうか。

同時期でいえばニューウェイブ~ニューロマンティックの時期だ。シンセサイザーの登場に生まれたエレポップを基準点にしつつ、ポップシーンのサウンドが様変わりした時期。エレドラ(電子ドラム)とゲートリバーブが一気に流行し、「ダイナミックなドラムサウンド」が特徴になっていくタイミングで、Duran Duran、Culture Club、NEW ORDER、JAPAN、The Cureなどなどがヒットを飛ばした。

いまでこそポストパンクとニューウェイヴの違いはある程度明確にはあるだろうが、当時のイギリスだとは大きな違いがあったのだろうか、むしろ日本でどう受け取られていたのか、気になるところ。

話を戻そう。Cabbageのサウンドは、ニューウェイヴのようなヤワな感触はない。プロデュースにはこれまで同様にThe CoralのJames Skellyが務めており、レーベルもイギリスのインディレーベルInfectious Musicと契約している、1枚出したら契約終了のワンショット契約なのだろうか。

Cabbageのサウンドは、過ぎるほどに削ぎ落し、尖りに尖ったバンドサウンドというだけではなく、彼ら先祖に比べると緩やかなグルーヴ、大雑把なファズ&ディストーションなギターサウンド、明朗なボーカルやメロティラインが、楽曲によって変化付けしている。ポストパンクらしさを引きずりつつ、先祖らとは少し違うファットなバンドサウンド、もっとラフなのだ。

地元マンチェスターの先輩たち、Joy Division、The Fall、The Smithsの影が見えてくるし、80年初頭から2010年代後半までに至るUKロックの経過も加わって見える。あえて言おう、Cabbageはマンチェスターという聖地と歴史をちゃんと受け取りつつ、彼らは彼らなりの音楽を追い求めたのだ。

Is it friendly fire if the arms are from home, and in the hands of an extreme man?
Those hands are green prod with clad of few buy our words straight and sway every man
It's destructive and it's so addictive, but we find our way to repeat, and repeat and
Solace in a decking chair appreciate the land you bought with slaughter
Man has a price
武器が家にあったものであれば、フレンドリーファイアになるのでしょうか?極端な男の手に渡った場合、それは友好的な攻撃なのだろうか?
その手は、少数の服を着た緑色のプロードで、私たちの言葉をまっすぐに買い、すべての人を揺さぶる。
それは破壊的で中毒性があるが、我々は繰り返し、繰り返し、繰り返す方法を見つける。
デッキチェアでくつろぐ 虐殺して買った土地に感謝する
人間には値段がある
「Arms of Pleonexia」
You are the soul that we all avoid
Bleakness is an illness we attain
You focus, on the weakness
You focus, on the weak
You are the soul that we all avoid
Bleakness is an illness we detain
You focus, on the weakness
You focus, on the weak
あなたは私たちが避ける魂
殺伐とした雰囲気は、私たちが獲得する病気
あなたは弱さに集中する
あなたは弱さに集中する
あなたは私たちが避ける魂
殺伐とした雰囲気は、私たちが留める病気
あなたは弱さに集中する
弱いものに集中する
「Subhuman 2.0」
'Nihilistic Glamour' is our description of the desperate, vacuous, self referential world in which we live in, both politically and socially.
「Nihilistic Glamour」というのは、政治的にも社会的にも、私たちが生きている絶望的で、空虚で、自己言及的な世界を私たちが表現したものなんだ。https://www.skiddle.com/news/all/Cabbage-interview-Nihilistic-Glamour-Shots/53203/

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2020年にはアルバム「Amanita Pantherina」を発表。このアルバムも他の作品同様、コロナ禍の影響を受けてはいる。2019年の12月から翌年1月にかけてレコーディングし、マスタリング途中で一旦作業がストップ、3月に発売するところが9月まで延期することになったのだ。

何より本人たちにとっては、全員がスタジオに入って再び音を出せるまでに4か月以上もかかったこと。2021年に入ってからは徐々にライブハウスなどでのライブができるようにはなってきているものの、バンドパフォーマンスについて独特の言い回しで表現している。

Once you've got a well-oiled machine as a punk rock group it’s tough to get the bolts and screws turning again.
パンクロック・グループとしての油を塗った機械を手に入れた後、ボルトやネジを再び回すのは大変なことなんだ。

今作で重要なのは、これまでCabbageの作品を支えていたThe CoralのJames Skellyの手からは離れ、Cabbageのセルフプロデュース作品となったことにある。自主レーベル&自主スタジオとしてBRASSICA RECORDS/Brassica Studioを設立し、これまでメジャーレーベルを転々としていた活動からは一転した。長年彼らをアシストしてきたChris Stocktonも今作には参加しているものの、彼らが中心となって制作されたことには変わりがない。

こんな身もふたもないことを言ってしまうと「ウッソだろ?」と思われそうだが、自主レーベル設立以前以後となる今作において、なにか明確な違いがあるか?と問われると、実は少し指摘しづらい部分がある。

静動をクッキリと分けてアグレッシブかつパンキッシュさを売りにした曲、より単純にメジャーキーを使用した曲が増えたこと。相対的に、クール&ダークなパートや曲風が減り、「ささくれ立った」ムードが減衰したともいうだろう。よく言えば聴きやすくなった、悪く言えばフツーなロックサウンドに近づいた、それぞれに言えよう。

例えば「You've Made An Art Form (From Falling To Pieces)」を聞いたとき、「怒りに満ち満ちたポストパンク!」というのは少し抵抗があるだろう。

彼らを特に面白くしているのは、イギリスを代表するとか、ロンドン在住という部分ではなく、彼らが未だにマンチェスターのモズリーに住み、自主レーベルを構え、マンチェスターのバンドシーンの顔役という立場を崩さないようなロックバンドになっているということ。彼らの作風と振れ幅をみていると、やはり彼らに「マンチェスター出身のロック」を体現するバンドだろうと思う。

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