定番モニターヘッドフォン30年の歩み
ソニーストア銀座にSONY MDR-M1STとMDR-CD900STが併設されていたので聞き比べてみました。思い出を交えた感想です。
■定番が苦手だった
MDR-CD900STは2004年頃にクライアントからお借りしたのがきっかけで使い始めて(それ以前に友人宅で触れていたかも)当時は高域がキンキンして粗探しはしやすいけど音楽は楽しめないと思っていました。
お借りした個体をご好意で譲ってもらい、自メンテを通じて部品と音質の関係を体感、ヘッドバンドとハウジング以外を全交換しても好きになれない。
転機は2009年頃、とある方のHPアンプを自作したら「CD900STこんなに音良かった?」と驚いたのを鮮明に覚えています。くっきりはっきり聞こえつつ不思議と音楽的な心地良さが同居していました。
しばらく使い続けて長所はそれなりに理解しましたが、うっかり踏んづけたり、他のHPを導入して出番は減っていきます。
■CD900STの利点
一字一句同じではありませんが、鈴木Daichi秀行さんの発言が腑に落ちました。
「CD900STは演奏時のモニターには適していますが、ミックスやマスタリングには不向きです」
演奏ニュアンス判断にぱっきり感は有効でも、低域の質感がより重要な現代では役不足とメーカーも把握していたのでしょう。
録音現場の写真でよく目にするから「現場の定番=良い音 」と誤った認識が浸透したのもありそうで、業務的には音質云々よりネジ1本から部品購入できる安心感とメンテナンス性で長く愛されてきたと推察します。
■新定番を生み出す
ソニーが30年ぶりにリニューアルすると聞き、OTOTEN2019でMDR-M1STを試聴した初感、時間は数分。
改めて聴き直すと初見で的を得ていました。CD900STと聞き比べて感じるのは中低域の解像度と奥行きの違い、MDR-M1STは1~2サイズ大きいSPのスケール感で高域の痛さも減り聞き疲れしにくい印象です。
OTOTEN2019は開発者トークイベントに間に合わなかったのが心残り。
■インピーダンスの罠
試聴中に TA-A1ES のインピーダンス設定が気になりました。
現場では適正値が分からず(ググればよかった)全ての値を試しましたが、後ほど調べて3ポジションは以下の通り。
MDR-M1ST(24Ω)はLOW、MDR-CD900ST(63Ω)はMIDが適切。インピーダンス設定を上げると音量が大きく高域が明瞭になる傾向。最近はインピーダンス変更できるアンプが(プロ機は入力側)流行っているようで、適切値で印象は近くなるけど中低域の堀の深さは根本的に変りませんでした。
私の前に推定20代男性がMDR-M1STを試聴していて直後に見たポジションはHI、知識が無いのか意図的かわかりません。OTOTEN2019も確かこのアンプで、ポジション記憶は無いから他のHPアンプも試してみたい。ちなみに、録音現場でインピーダンスミスマッチの音作りはよくやります。
■新定番になりえるか
MDR-M1STはCD900STの印象を残しつつ、現代に求められる広帯域かつ中低域の解像度と使いやすさ(リケーブルや折りたたみ等)のニーズに対応した製品です。部品販売もされて長く愛される可能性はありますが、この価格帯のモニター用はオーディオテクニカやYAMAHAなど高コスパの競合製品が多く、新定番たるかはもう少し様子を伺わないとわかりません。
CD900STは今後も併売されてスタジオ在庫や用途に応じて使い分けるのが現実的でしょうか。
最後に、記事のきっかけを頂いた菊田裕樹さんに感謝申し上げます。
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