教育勅語は「大学(四書)」の焼き直し

2024年の今でも「教育勅語」には「普遍的なことが書いてある」としている人がいるのだが、
 その普遍的なこと、とはぶっちゃけ、「朱子学」である。特に教育勅語は朱熹がまとめた四書の「大学」に酷似している。

 そもそも、教育勅語を編纂したのは「井上毅」と「元田永孚」と言われているが、元田永孚はバリバリの儒学者であり、朱子学の最初のテキストである「大学」こそが教育の基本方針にふさわしいと考えたのは想像に難くない。

教育勅語の背景

 あまりに当たり前すぎて「教育とは人の持っている徳を発露させること」という大学の徳治主義を書くのを忘れたのが失点であるが
 大学においては、「大学(当時のエリート教育)と小学(一般庶民への教育)を皆習い、国家の上も下も勉学に励み、徳の成就に努めた。これこそが教育のあるべき姿である」と教育の意義を説いている。
 恐らく、元田永孚も、この教育観に影響を受けたのである。大日本帝国の教育制度を大学に基づく朱子学にしようと考えたのは全く自然である。

そもそも、教育勅語を中心に「修身」という時間が設けられたが「修身」という言葉そのものが「修身斉家治国平天下」書き下すと「身を修るのち、家斉(ととの)う、そののちに国治むる、そののちに天下平す」である。
つまり、自分の身を律し、徳を修めてこそ、家が乱れなく収まる。家が乱れなく収まってこそ、国家が治まる、国家が治まってこそ天下が太平になる、というバリバリの徳治主義、王道政治である。

 教育勅語がなぜ、夫婦の相和や、兄弟の友愛を解くかというと、この大学の「徳を修め、家族への愛こそが国を治める」という王道政治によっているからである。
 12徳目がどう、大学から引用されたか見ていこう

孝行(コウコウ) 親に孝養をつくしましょう


孝(こう)は君(きみ)に事(つか)うる所以(ゆえん)なり。弟(てい)は長(ちょう)に事(つか)うる所以(ゆえん)なり。慈(じ)は衆(しゅう)を使(つか)う所以(ゆえん)なり。
(大学 九章)

孝行は君主に仕えることである。弟は年長者に仕えることである。慈愛は大衆に仕えることである。

孝行、忠孝とは、儒学の基本概念である。家の年長者に尽くすことは、家内の繁栄をすることだ、ということである

友愛(ユウアイ) 兄弟・姉妹は仲良くしましょう


詩(し)に云(いわ)く、兄(けい)に宜(よろ)しく弟(てい)に宜(よろ)し、と。兄(けい)に宜(よろ)しく弟(てい)に宜(よろ)しくして、而(しか)る后(のち)に以(もっ)て国人(こくじん)に教(おし)う可(べ)し。
(大学 九章)

古代の詩に曰く、兄に優しく、弟に優しく、と兄に優しく、弟に優しくし、その後に国中の人を教えることが出来る

夫婦ノ和(フウフ ワ) 夫婦はいつも仲むつまじくしましょう

其(そ)の家(か)人(じん)に宜(よろ)しくして、而(しか)る后(のち)に以(もっ)て国人(こくじん)に教(おし)う可(べ)し。

嫁ぎ先の家の人たちとうまくいってこそ、国じゅうの人々を教化することができる。

夫婦の和合については四書の「中庸」にも記述がある。完全に朱子学である

朋友ノ信(ホウユウ シン) 友だちはお互いに信じあって付き合いましょう


上(かみ)に悪(にく)む所(ところ)、以(もっ)て下(しも)を使(つか)う毋(な)かれ。
下(しも)に悪(にく)む所(ところ)、以(もっ)て上(かみ)に事(つか)うる毋(な)かれ。
前(まえ)に悪(にく)む所(ところ)、以(もっ)て後(うし)ろに先(さき)だつ毋(な)かれ。
後(うし)ろに悪(にく)む所(ところ)、以(もっ)て前(まえ)に従(したが)う毋(な)かれ。
右(みぎ)に悪(にく)む所(ところ)、以(もっ)て左(ひだり)に交(まじ)わる毋(な)かれ。
左(ひだり)に悪(にく)む所(ところ)、以(もっ)て右(みぎ)に交(まじ)わる毋(な)かれ。
大学 十章

上司の嫌なところは、自分が上になった時、下に使ってはいけない
部下の嫌なところは、自分が部下になった時、上に使ってはいけない
先輩の嫌なところは、自分が先輩になった時、後輩に使ってはいけない
後輩の嫌なところは、自分が後輩になった時、後輩に使ってはいけない
右隣の人の嫌がることをして人付き合いしてはいけない
左隣の人の嫌がることをして人付き合いしてはいけない

コレが友達に信じあいましょう、ということ

謙遜(ケンソン) 自分の言動をつつしみましょう


此(これ)を之(こ)れ絜(けっ)矩(く)の道(みち)と謂(い)う。
大学 十章

これを「思いやりの道」という

先の続きである。
朱熹注釈で「思いやりの道」「慎みの道」と注される。

博愛(ハクアイ) 広く全ての人に愛の手をさしのべましょう


康誥(こうこう)に曰く、赤子(せきし)を保つが如しと。心誠にこれを求むれば、中らず(あたらず)と雖も遠からず。未だ子を養うことを学びて而して(しかして)后(のち)に嫁(か)する者あらざるなり。一家仁なれば一国仁(じん)に興り(おこり)、一家譲(じょう)なれば一国譲に興り、一人貪戻(たんれい)なれば一国乱を作す(なす)。その機かくの如し。
大学 十二章


康誥(こうこう)が言うには、君子が百姓(人民)を愛することは、慈母が赤子を保つようなものであると。母親の心が真心を持って赤子の気持ちを知ろうと求めれば、当たらずとも遠からずである。いまだ子供を育てることを勉強して学んでから、その後にようやく嫁ぐという女性はいないのである。君子の家が仁であれば、それに感化されて一国の中にも仁の気風が起こり、家が譲であれば一国もこれに影響されて譲(控えめ)となり、君子が私利私欲をむさぼって暴虐であれば、一国は乱れて反乱が起こるのである。国を治める機会とはこのようなものなのである。

徳治主義の権化のような文
「失政者が民を愛することは、母親が赤子を愛するようである」つまり、国が慈愛に満ちれば、国は安定する、と説いているのである。

修学習業(シュウガクシュウギョウ) 勉学に励み職業を身につけましょう


蓋(けだ)し天(てん)の生民(せいみん)を降(くだ)してより、則(すなわ)ち既(すで)に之(これ)に与(あた)うるに仁(じん)義(ぎ)礼(れい)智(ち)の性(せい)を以(もっ)てせざる莫(な)し。
大学 章句序

天が作った人民が仁義礼智の本性を持っていない訳がない
(コレが、教育をするゆえんである)

「徳を広めることを勉学」と呼ぶ、徳治主義である。

智能啓発(チノウケイハツ) 知識を養い才能を伸ばしましょう


人生まれて八歳なれば則ち王公より以下、庶人の子弟に至るまで皆小学に入り、而してこれに教うるに洒掃(さいそう)応対進退の節、礼楽射御書数(れい・がく・しゃ・ぎょ・しょ・すう)の文をもってす。その十有五年に及べば則ち天子の元子(げんし)・衆子(しゅうし)より、もって公卿(こうけい)大夫(たいふ)元士の適子(てきし)と凡民(はんみん)の俊秀(しゅんしゅう)とに至るまで皆大学に入り、而してこれに教うるに窮理(きゅうり)正心(せいしん)修己治人(しゅうこちじん)の道をもってす。

大学 二章

人は生まれて八歳になれば、上は王公から下は庶民の子弟に至るまで、みんな小学に入学して、洒掃応対進退の基本的な生活態度や礼楽射御書数の士大夫の教養を教えられた。子弟が15歳に達すると、天子の太子やその他の王子、公卿・大夫・元士の嫡男、庶民の優秀な子に至るまで、みんな大学に入った。これらの有能な子弟には、理知を窮めた教育を施して、心を正しくして自己を修め、人を治めるための道理を教えたのである。

教育の大切解いている古代の聖人の教育をたたえる大学の理念。

徳器成就(トクキジョウジュ) 人格の向上につとめましょう

上記に同じく、大学では特に「修身」と呼ぶ。

公益世務(コウエキセイム) 広く世の人々や社会のためになる仕事に励みましょう

是(ここ)をもって当世の人学ばざるなく、その学ぶ者はもってその性分の固有する所、職分の当為とすべき所を知って、而して各々俛焉(べんえん)としてもってその力を尽くす有らざる無し。これ古昔(こせき)盛時(せいじ)、治上(ちかみ)に隆んにし俗下(ぞくした)に美に、後世の能く及ぶ所に非ざる所以なり。
大学章句序

学校が整っていることによって、夏・殷・周の人々には学ばない人間がいない。その学ぶ者たちは仁・義・礼・智といった固有の本分、自分の職分としての義務を知っている。そして、それぞれ自分のやるべきことを勤勉に行っており、自分の全力を尽くさないという人(学ばず働かないといった怠けている人)がいないのである。これは古代の王朝の盛んな時期には、上の政治がきちんと機能していて、下の庶民の風俗も乱れていなかったこと(風俗・生活が美しかったこと)を示しており、後世がその昔の時代に及ばない由縁である。

教育の普遍性を説く、大学の理念である。復古的なのも儒学の特徴

遵法(ジュンポウ) 法律や規則を守り社会の秩序に従いましょう

これは大学にない章。
儒学は礼でもって国を治めるのを説くので、法を重要視しないのである。
これは法家です。

義勇(ギユウ) 正しい勇気をもって国のため真心を尽くしましょう

これも、大学にない章。
これは当時の大日本帝国が大学に付け加えたオリジナルである。(一旦緩急アレバ義勇公ニ奉ジ)
強いて言うなら、教育勅語のオリジナル部分とはここくらいのものである。

という訳で、教育勅語は大学(四書)で完全に代用可能である。
せいぜい、「お国のために命を賭けましょう」がないくらいで、その中身は大学、朱子学である。

別に、明治帝が作ったからと言って、特別なものではない。








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