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この世に未練が出来た話

ある夏の日。
ワクチン接種の副反応で熱が38度まで上がり、ウダウダとYouTubeを流し見るしか出来なかったあの日。携帯のスクリーンに、そこまで縁のなかったバンドの動画が表示された。

『赤い公園 BD "THE LAST LIVE 「THE PARK」" teaser』
https://youtu.be/xdaD1kmZTLw

YouTubeのおすすめ機能とは気まぐれなもので、大喜利の動画を見ていたはずが、気がついたら料理系YouTuberに辿り着いていたりする。
今回もそれと一緒だ。YouTubeの気まぐれ。解散したから云々とかではない。
ただ表示された、それだけだ。
そんな軽い気持ちでティザー映像をタップした。

もちろん聞いたことがない曲ばかり。津野さんの立ち位置にはサポートギターのお方が。
これはきっと良いライブだったんだろうなぁ…。

そう思っていた頃、この曲が流れ出した。

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目を見開いた。ワクチン副反応で鈍っていた本能が一気に目覚めた。

なんだこれ!?

この曲から先の映像がまともに入ってこない。
たった数十秒で運命が変わった瞬間であった。「好きな曲調だな〜」みたいなレベルの問題ではない。下手なクスリでも引っ掛けたレベルに、この曲の虜になっていた。
思考なんて大それたものではない。反射だった。
38度の熱があるとは思えないスピードで、指は勝手に動き出す。

私は上記のスクショを撮り、それを見ながら「Highway…Ca…b…ri…o…le…t」と、呪文を唱えるようにタイトルを復唱した。
英検が3級で止まっている私はCabrioletなんて洒落た言葉を知らんかった。教養の無さがバレる。

YouTubeでその呪文を検索すると、MVが。

このMVを何度も見ながら、次のようなツイートを残していた。この辺りからまともな記憶は消失しているが、記録しておいた自分GJだよ。

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https://twitter.com/music_433224/status/1435905557286772737?s=21

…38度あった熱が下がり、副反応から完全に脱却したと言える頃。
誇張なしでこのMV、100回は見た。サビのダンスの振り(※振りと呼べるのかあれは?)まで覚えた。メンバーの名前こそまだ知らないが、パート毎の顔はしっかりと分かるようになっていた。

これは…沼では…?

しかし、ここでやっと史実を思い出す。

津野さんはもうこの世にはいないこと、

私が夢中になって見ていたのは「解散ライブ」の映像だったということ、

解散したということは、もう新しい曲を出さないということ。

解散したということは、もうライブなんかやらないということ。

バンドとしての全てが終わった後に沼に落ちた。しかし、不思議と悲しい気持ちは湧いてこない。むしろ。出会えてよかった、同じ時代を生きててよかった、バンドやってくれててありがとう、そんなポジティブな気持ちばかりだった。

それはきっと、赤い公園について興味を持つきっかけが、あの10月中旬の話じゃなかったからだ。ただ単に、音楽だけに惹かれて好きになった。だからこれだけポジティブシンキングで居られるんだと思う。音楽は色褪せないってガチ。

メンバーは解散ライブやって、そのBDもリリースして、もう全て終わったつもりなのだろう。
でも新参者って、バンドがどうあろうとこうやって現れるのだ。
終わりを作って未来を封鎖しても、その時の輝きは閉じ込められる。それに魅了する者が現れることくらい、許してやって欲しい。
今は亡きオードリー・ヘップバーンが、未だに映画のヒロインとしてファンを生み出し続けているように。
私にとっての赤い公園は、これから始まる。

実は中の人、この世に未練なんか無いつもりで今まで生きて来た。もう明日死んでも後悔しない、そう言い切った時もある。実際そう思いながらワクチン接種に挑んだ程だ。

でも赤い公園を始めてしまった今、曲を全て聴き終わってないのに死ねるわけがなくなった。来世でも赤い公園に巡り合えるとは到底思えない。

「天国に行けば津野さんの新曲が聴けるかも…」と思ったこともあるが、それは赤い公園も我が人生も両方とも極めてからじゃないと、津野さんは多分聴かせてくれない気がする。お前はまだ現世に居ろと送り返されてしまいそうだ。

生きねば。赤い公園を始めてしまったんだから。



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