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【知の勉強会】デンマークの伝説的人物、思想家・グルントヴィについて学ぶ📖

お疲れ様です。広報・岡田です。

「知の勉強会」第二回は、デンマークの思想家であり、フォルケホイスコーレの生みの親、グルントヴィについて学びます!

私たちグリニッチには、北欧インテリアを通して、その背景にあるデンマークの暮らし方や考え方を広めたい、という想いがあります。

豊かな国・デンマークの暮らしや考え方の”源”をつくったとも言われる、デンマークの伝説的人物・グルントヴィ。
彼が提唱した考えを学び、知見を深めることで、私たちの考えをより一層深く広く伝えていけるのでは?と思います。

今回はグルントヴィに関するご著書を数多く出されている、名古屋大学准教授の小池直人氏のレポート「グルントヴィのホイスコーレ構想が拓いたもの ――知的改革と政治・「社会」形成」を参考に、グルントヴィの考えをみんなとシェアしたいと思います!

WEB事業部の出石くんがフォルケホイスコーレへ留学した際の写真もたくさん織り交ぜながら(出石くんありがとう)、できるだけわかりやすく..と意識してまとめてみましたので、ぜひ最後まで読んでくれると嬉しいです!🙇‍♀️

グルントヴィとは?

https://ja.wikipedia.org/wiki/ニコライ・フレデリク・セヴェリン・グルントヴィ

近代デンマークの伝説的思想家、N・F・S・グルントヴィ。日本では、"民衆の民衆による民衆のための成人教育機関"である「フォルケホイスコーレ」の創始者として知られています。

それまで一般的だった合理主義思想、「ひとつの事物にはひとつの真理がある」といったような明晰判明に思考することや、普遍的な言語・記号に基づく近代の合理的啓蒙や分析的科学を、単独では「生命のないもの」「死せる教育」として批判し、「生の啓蒙」という新しい知の形式を掲げます。
グルントヴィが目指す「知」は、通常の言語的相互作用を通じて諸個人の健全な「常識(コモン・センス)」のなかで成立するもの。つまり、多様な人々に理解できる「生けることば」で語られ、対話や討論、衝突や紛争を含む諸個人、諸集団、諸国民の歴史・社会的プロセスのなかで醸成されるものであるとし、それを制度化したものが、それまでの「死の学校」に代わる「生のための学校」、フォルケホイスコーレでした。

「生の啓蒙」3つの特徴

① 架橋の知

出石くん(WEB事業部)のフォルケホイスコーレ留学記

グルントヴィはフォルケホイスコーレを構想するにあたり、その目的を個人の「陶冶形成(ダンネルセ)」、つまり人間のもって生まれた素質や能力を理想的な姿にまで形成することとしました。
これは私たちがLife Placeを通して実現したいことでもありますね!

グルントヴィが目指した教育は、例えば先生から生徒への一方的な授業のような「一方向の知の授受」ではなく、言語的な「相互作用」のなかで行われ、個々人の個性やユニークさへの覚醒、アイディンティティーの獲得が、共同性において営まれるもの。すなわち、個人化と共同性の両方で、人間的に発達し成熟することが人間の成長である、としました。
(…個人として個性を発揮したりアイデンティティを獲得するだけでは「人間の成長」とは呼べず、同じ共同体に属す人間同士が相互に関わり合い、個人も共同体も発達し成熟することこそ「人間の成長」だ、とグルントヴィは言っているんですね🤔)

この「共同性」、一般的には家族や親族、地域、会社などが想定されますが、ここではアリストテレスが友愛(フィリア)と呼んだ質の関係を指します。ここで、前回取り上げたアリストテレスにも繋がりました!

出石くん(WEB事業部)のフォルケホイスコーレ留学記

アリストテレスによると人間は「社会的動物」であり、人間と人間との深いつながりなしには、幸福な人生は考えにくいのだそう。そのような人間同士の相互的な絆のことを、アリストテレスは「友愛」と呼び、「人柄のよさに基づいた友愛」「快楽に基づいた友愛」「有用性に基づいた友愛」と三つに分類しました。

グルントヴィが目指した教育は、ただの"集まり"ではなく、アリストテレスが「友愛」と呼ぶ関係性の人たちとの共同体において行われ、そこでは個性と共同性が相互に作用します。個性と共同性との異なるベクトルを連結する過程、つまり「架橋の知」が、グルントヴィが目指した「生の啓蒙」の特徴の一つです。

② 国民主体の形成

eläväni「いくつになっても学べる!?デンマーク独自の成人教育システム、フォルケホイスコーレ(前編)」

知の啓蒙の目標の一つに、「国民主体」があります。グルントヴィは民主化を進展させ、その制度を良好に機能させるには、「庶民(受動的労働力)」が近代的「サブジェクト」に、つまり国家運営の主体としての「民衆的国民」ないし「市民」へと成長しなければならないとしました。このためにグルントヴィは、「共通の最善」という理念を高く掲げています。これは、アリストテレスの概念(ここでも登場!)でいう4つの徳のうちの「賢慮(判断力)」、すなわち他の仕方ではありえない認識の真理ではなく、他の仕方でもありうるが、しかし最善である実践的真理を照らし出すことを意味します。

「共通の最善」は権力や暴力によってではなく、対話や討議、ルールに基づく紛争などの言語的相互行為を通じて得られると言います。グルントヴィ曰く、民主化のためには「民衆の声」の成長、とりわけ「庶民」すなわち小農層が政治主体として覚醒して「市民」あるいは「国民」となり、議会でも教養層や官僚、地主に引けを取らず、自らの価値観や利害関心を表明し、討議によって「共通の最善」を導けるようになることが重要であり、そのために必要となるのが「陶冶形成」でした。その役割を担ったのが、「知の啓蒙」を体現する場・フォルケホイスコーレであり、実際にフォルケホイスコーレでは「奴隷なき民属・民衆」というスローガンが掲げられるなど、国民主体を形成することが目指されていたことがわかります。

③ 「フォルケ・ホイスコーレ」の知的慣習

出石くん(WEB事業部)のフォルケホイスコーレ留学記

先述の通り、フォルケ・ホイスコーレは「死の学校」を代替する「生の学校」と言われます。綴りや文法を暗記して試験に備えるといった機械的学習では、個人のアイデンティティ獲得や社会化は身に付かず、結果的に垂直的社会的序列を生み出すことに繋がる、とグルントヴィは指摘しました。こうした「死の学校」に対し、「フォルケホイスコーレ」構想で「生けることば」による「相互作用」(=共同化)を掲げ、学校が単に私たちの知性を刺激し機能させるだけではなく、同時に魂や心(ハート)をも揺さぶって解放し、冷静な知性と暖かい心情の両方を備えた豊かな人間を育成することを展望しました。例として、授業の題材では歌謡や物語、神話などが扱われました。

参考に、哲学者のK・E・レーストルップ( 1905-1981) について、「フォルケホイスコーレは『至高の生の諸表出』、つまり生の勇気、喜び、信頼、暖かさ、希望などの諸価値の表出の場であり、メカニカルな主体を自然で人間的な共同主体へと再生させる場」と表現しています。

このような知の慣習や学校のイメージは、精神的自由の習慣が失われ、競争至上主義に支配された現在の日本では想像が難しいかもしれません。日本の学校は序列創出型に設計され、過剰な「機械的教育」が先行し、「陶冶形成(ダンネルセ)」の余地を奪う傾向にあります。「生の啓蒙」を知の慣習とするようになったデンマーク型近代と、そのことを合理化の名のもとに切り捨ててきた日本型近代との間には、学校のコンセプトに大きな隔たりが生じていると言えます。

<まとめ>グルントヴィの考えとLife Place

出石くん(WEB事業部)のフォルケホイスコーレ留学記

グルントヴィの考えである「生の啓蒙」にはいくつか、Life Placeの提案につながるキーワードが含まれていました。

一つは、「陶冶形成(ダンネルセ)」。人間のもって生まれた素質や能力を理想的な姿にまで形成することを意味し、フォルケホイスコーレの目的の一つとして掲げられていました。これは「人間に本来備わっている人の「能力」や「素質」を取り戻す居場所=Life Placeを作る」という私たちの考えにも繋がる部分と言えます。

豊かな国・デンマークに多大な影響を与えたグルントヴィの考えが、インテリアを通してデンマークの暮らし・考え方を広めたいという私たちの考えと共通する部分があるというのは注目すべき点であるし、グルントヴィの考えを学ぶ意味がより一層強まるように思います。

出石くん(WEB事業部)のフォルケホイスコーレ留学記

また今回の記事の中に2回、アリストテレスの考え方を参照した部分がありました。
一つが、グルントヴィが目指した教育のあり方である「個性と共同性の相互作用」における、共同性。アリストテレスが「ニコマコス倫理学」において、幸福な人生の要素の一つに掲げた「友愛」の関係の共同性を、グルントヴィは重要視しました。
またもう一つが、国民主体のために必要だと唱えた「共通の最善」。これはアリストテレスが幸福のために不可欠とした「徳」の中でも最も重要な4つのうちの一つ、「賢慮」で説明されました。

デンマーク国民の考え方に影響を与えたグルントヴィの「生の啓蒙」が、アリストテレスの幸福論と共通するということは、現在デンマークが「幸せの国」と呼ばれる所以だ、という見方もできそうですね。

eläväni「いくつになっても学べる!?デンマーク独自の成人教育システム、フォルケホイスコーレ(前編)」

グルントヴィ、そしてアリストテレスの考え方を学ぶことで、理解が深まるのは
もちろん想定外の共通点も見つかり、Life Placeの考え方自体もより深く広く、捉えられたように思います。

私自身内容を理解するのに苦労し、小池先生のレポートを何度も読んで、ようやくまとめた記事なので、わかりづらい点も多々あるかと思います🙇‍♀️
みなさんからのご質問、ご意見、ご感想もぜひ!お待ちしています🙋‍♀️

広報 岡田



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