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いち病院薬剤師が『アンサング・シンデレラ』第5話を見た感想

今回も、さまざまな思いが去来している。

そもそも、アンサング、unsungな存在の薬剤師にスポットを当て、原作漫画やドラマにする。それ自体は、ひたすらunsungな状態で過ごして来た薬剤師をしている私という一個人にとっては非常に光栄なことである。

病院薬剤師の仕事内容や奮闘ぶりを描いて、世間のみなさまに知ってもらうのはうれしいことである。

そういう意味では、今回の中では、化学療法室の安全キャビネットで、見えない、会わない患者さんのために黙々と抗がん剤調製していたあの薬剤師がunsungかなと思う。

患者さんも、もしかしたら、他の医療職も、薬剤師がどれほど神経をすり減らしながら、患者さんの安全第一に、そして、調製する自身や調製後の抗がん剤を取り扱う他の医療スタッフの安全を守るために、抗がん剤調製を行っていることを、あまり知らないだろう。地味だけど、そういう存在をunsungというのではないか。

葵さんや相原さんのような熱量で全員の患者さんにエネルギーを注ぐことができたらすばらしいことだと思う。……いや、どうなのだろう。

ドラマとしては感動的なシーンの数々だったのかもしれないが、私は苦虫を噛み潰したような顔で見ていた。これではunsungではなく、sungではないか、と。

実際の現場では、もっと看護師が近くにいるし、まずは医師からしっかりと説明がある。ドラマに看護師がほとんど出て来ない。出ると薬剤師が霞むからなのだろうか。

薬剤師が主演ドラマのため、患者さんの近くでこんなに活躍している、ということを表現する、演出する必要があるのだろう。
しかし、少なくとも現在の自分の感覚では、ドラマでの描かれ方は、多少の違和感があったと言わざるを得ない。

やっぱり、自分の職種、薬剤師は、どうやっても医療の現場では主役ではないと思う。これまでに何度もドラマに出来たように、医師、看護師の存在感は、患者さんにとって、とてつもなく大きいと思う。

何かいい例えがないか、ない知恵を絞って考えたが、今思い付く精一杯がこうだ。とんかつ定食。とんかつが医師で、ご飯が看護師。強いて言うなら、薬剤師はキャベツかな、と。あったらまあうれしいし助かるかな、でもとんかつメインじゃろ。ご飯はないと困るじゃろ。キャベツは、まああったらいいな。もちろん、他にも栄養士、理学療法士、作業療法士、放射線技師等々、さまざまな医療職が活躍しているので、薬剤師がキャベツを独占するわけにもいかない。

業務配置の関係で、ここ数年は、がんに関連する業務に従事してきた。抗がん剤調製に携わったことがあり、そして、最近はがん患者さんと多く関わっている。昨年は、とある認定試験にダメ元で挑戦したが、やっぱりダメだった。

私自身は、患者さんとの距離感に気をつけているつもりだ。相手により、自分への受け入れ度合いが変わる。同じ相手でも時期によってその度合いが変わる。

時には人生が終わりに近づいていることを恐れながら、悟りながら過ごす方と接することもある。

がん患者さんと多く接する医師の友人に聞いてみた。「重くない?どういう心構えで仕事したらいい?」
「遅かれ早かれ、いつか自分も死ぬから」

そう教えてもらってから、まずは自分の心が元気でこの仕事を続けられるように、なおさらほどよい距離感に気をつけるようになった。

患者さんによっては、薬のことを知りたい人もいて、薬剤師を頼ってくれる人もいる。

人間同士の付き合いだから、どの患者さんとも同じ距離というわけはなく、今回のドラマに出てきた伊武雅刀のような患者さんのように、思い出に残る方は何人かいらっしゃる。(伊武雅刀はもう、本当に病棟で見かける患者さんそのものだった〕

逆に、あまり受け入れてもらえていないなと思うこともある。

今回、載せた写真。一つだけこっちを向いているおみくじカープ坊やが、形見になったことを最近知った。
「大したものじゃないんで、お願いだから受け取ってください!
私、大吉が出たんです!
元気になって戻って来ます!」と転院前にガッツポーズをしてくれた人。
その数日前には、もうしんどい思いはしたくない、と涙を流していた。

少ないなりにもいろいろながんに関わる業務に関わっているからこそ、今回のストーリーは私にはほろ苦かった。

もしかしたら、私の仕事スタイルを葵さんに近づけないといけないのかもしれない。歳だから、そんなエネルギー、残ってないか。

現場目線では、熱量下げ目、ドラマじみてないというのが本当のところだ。

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