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chase bliss audio - blooperとHabitの話

はじめに

今回の記事は、本当に超ニッチすぎる内容になることを妥協して書こうと思う。
chase bliss audioのblooperとHabitを題材に、LooperとDelayという、似て非なる2つのエフェクターの考え方についても記していこうと思う。

chase bliss audio - blooper(左)とHabit(右)

今年の4月頭に発売され、話題となったchase bliss audioのディレイ、"Habit"。chase blissの代表作といえば"MOOD"と"blooper"であったが、それに並ぶ新作を出してきた。
私も当初、ワクワクして発売日に大阪梅田のロフトの島村楽器に試奏しに行ったのが記憶に新しい。
blooperも、Habitも、基本的にはループ音やディレイ音に"Modifier"と呼ばれる様々な種類のエフェクトをかけることが出来るのだが、そのエフェクトは従来のギターのエフェクターの類ではなく、完全にモジュラーシンセから着想を得たであろうエフェクトだ。ギタリストにとって、この新鮮さがblooperやHabitの魅力であることは言うまでもない。
blooperとHabitの違いだが、一見すると、ループ音を加工できるのがblooperで、ディレイ音を加工できるのがHabitだ、と考えるだろう。
しかし、これは大きな間違いである。この二者、想像以上に複雑な絡み合いがある。blooperはDelayでもあり、HabitはLooperでもある。

LooperとDelayの相関性

まずは、LooperとDelayが似て非なるものであることについて、ある程度初歩的なところから説明しようと思う。
Looperは一般に、REC (→ PLAY) → OVERDUBという流れで音を重ねていくものであるのに対し、Delayは、設定されたある一定時間後に入力音が繰り返し返ってくるというものである。この2つの類似性にお気づきだろうか。
DelayにはFeedbackというパラメーターがあり、音をどれくらい返し続けるかを調節するものである。このFeedbackを100(最大)にすれば音が永遠に返って来続ける。音が永遠に続いて重なっていくということは、もうお気づきだと思うが、これはルーパーなのだ。

LooperとDelay

わかりやすく図示してみた。
例えば、「1 2 3 4 5 6…」というフレーズを弾いたする。そして、Looperで「1 2 3 4 5」を録音し、そのあとOVERDUBをすれば、2周目では「1 2 3 4 5」に重ねて「6 7 8 9 10」が鳴って録音され、さらに3周目では「1 2 3 4 5」と「6 7 8 9 10」というハーモニーに重ねて、さらに「11 12 13 14 15」が重なる。ここで、仮にRECからPLAYの時間を1秒とし、同じことをTimeが1秒のDelayでしてみる。「1 2 3 4 5」と弾いていくと、「1」の音は1秒後に「6」と重なって鳴るし、「2」の音は1秒後に「7」と重なって鳴る。Feedbackが大きい場合は、さらに1秒後に「1」「6」「11」が重なるし、「2」「7」「12」が重なって鳴る。
これらを比較すれば分かるように、理論上、LooperはDelayであり、DelayはLooperなのだ。ルーパーでいう「RECからOVERDUB(PLAY)までの時間」がディレイでいう「Time」になる。逆に、ディレイでいう「TAPテンポ」がルーパーでいう「REC・OVERDUB」になる。
無論、ディレイにも種類があり、アナログディレイやテープエコーなどのディレイでは、Feedbackを100にすると、特性上ピークが膨らんで音が歪んでいったり劣化を繰り返すため完全にルーパーと一致するわけではない。ただ、完全デジタルでFeedbackが100のディレイは一般的なルーパーと同じであると言える。
逆にルーパーも、OVERDUB時に音が減衰していくようにすれば、この減衰度をFeedbackとしたディレイと捉えることができるのだ。

Line6 DL4が生み出した"ループサンプラー"の概念

LooperとDelayの考え方を結びつけるという偉業を成し遂げたのは、Line6のDL4と言って異論はないだろう。まさにギターフレーズの創造性を一気に飛躍させた名機である。
多くの人がLooperと聞けば、「1拍目で録音ボタンを押し、4小節間録音して、それにまたフレーズを重ねて・・・」のような使い方を想像するだろう。しかし、ここでは「ループサンプラー」としての使い方を考えたい。この「ループサンプラー」は、別に録音や再生のタイミングは適当でいいのである。今自分が弾いているフレーズの一部を録音(サンプリング)して、それに例えば倍速や逆再生などのエフェクトを適用させ、現在のサウンドの上にレイヤーとして重ねるというような使い方を想像してみてほしい。ここでこのサンプリングは、曲のキーさえ合っていれば、別にどこからどこまでをループしようが、いい感じになるのである。chase blissのMOOD等にも搭載されている「マイクロルーパー」は、その典型例である。

blooperはDelayでもあり、HabitはLooperでもある

メーカーは、HabitはあくまでDelayであると謳っているが、本当にそうだろうか。Habitは、TIMEノブを弄ってもディレイ音が発振しないようにできているし、Delayとしてのみの用途であれば、Delay Timeが最大60秒なんてそんな馬鹿なことはしないはずだ。逆に、blooperはLooperであると謳っているが、Looperとしてのみの用途であれば、わざわざ「Repeats」などというノブはつけないはずだ。
これはつまり、blooperはDelayでもあり、HabitはLooperでもあるということだ。
では、この"blooper"と"Habit"。2つの違いは何なのか。それはズバリ、操作性だと思う。勿論、blooperはModifierを2つ同時がけできるとか、Habitには"MEMORY"があってSecondary Echoがついてるとか、それぞれがアイデンティティを保つだけの十分な違いはあるが、今回はこのループサンプラーとしての使い道についてのみ議論することにする。(Secondary Echoの魅力について語り出すとキリがない)

例えば、「永遠にピッチが上がり続けるディレイ」の音作りを両者で考えてみる。
blooperでこの音を作ろうとすると、"ADD"モードに設定、ModifierをSpeed系のいずれかにし、MODノブをSpeedが速くなる任意の位置に設定した後、「REC→PLAY→OVERDUB」あるいは「REC→OVERDUB」の、最低でも2回のボタン操作が必要だ。
ところがHabitでの音を作ろうとすると、"IN"モードに設定、ModifierをA-1かB-1にし、同様にMODIFYノブをSpeedが速くなる任意の位置に設定すれば、あとはペダルをオンにするだけだ。
Habitの方がアクセスが良く、圧倒的に楽である。しかもこの場合、blooperにはもう1つ致命的な欠陥がある。それは、blooperは設定の保存ができないことだ。chase blissのエフェクターでは、2つのフットスイッチの間にあるトグルスイッチで、プリセットの呼び出しが可能である。しかしblooperは、この部分のトグルスイッチはプリセットの呼び出しではなく、ループの保存と呼び出しに使われている。つまり、blooperではプリセット保存機能が使えないのだ。これは想像以上に致命的である。chase blissユーザーであればご理解いただけるだろうが、dipスイッチの設定を曲中に変えるのは細かすぎてほぼ不可能である。このときに役立つのがプリセット保存機能で、プリセットではdipスイッチの設定まで保存されるため、保存さえしておけば、スイッチひとつで容易に好きなセッティングにアクセスが可能だ。

例えば、先述の例に加えて、「ピッチをランダムにピコピコさせる」音作りを考えてみる。
blooperでもHabitでも、dipスイッチのMOD、Bounce、Randomの3つをオンにする必要があるが、Habitであればこの設定を保存できるため、予め保存しておけば、トグルスイッチ1つで簡単にこの音が出せる。しかしblooperでは設定の保存ができないので、わざわざ筐体の背面を覗き込み、爪を立てて細かい作業をしなければならない。レコーディング場面などではいいかもしれないが、ライブでの活用はほぼ不可能だ。
このように、blooperとHabitでは、操作性の観点で明らかに違いがあり、Habitの方がライブ向きであることが分かる。

しかし、Habitの方が一概に操作性に優れているとも言い難い。「ルーパー」としての使い道の場合を考える。
HabitをLooperとして使うには、Repeatsノブを最大にすればいいわけだが、このままでは入力された音が永遠に返って来続ける。Looperで言うと永遠にオーバーダブされ続けているのと同じだ。しかし、Habitにはこれを止める機能がちゃんと用意されている。右のフットスイッチを長押しすれば、ルーピングという、Looperで言うと「再生」の状態と同じになり、エコーに音を入力させずに音を繰り返すことができる。しかし、長押しというのは中々面倒だ。これが、blooperであれば、REC・PLAYと2回押す、あるいはモーメンタリであれば1回の長押しだけで可能である。

ここまでで言えることが、あくまで両者とも同じ音を出すことが可能だが、Looper的なアクセスが良いのがblooper、Delay的なアクセスが良いのがHabitということである。そういう意味で、メーカーはあくまで操作性の観点でLooperとDelayを区別していると考えられる。この点の解釈を間違ってはいけない。

Habitが欲しい

ここからは完全に私の個人的な話を混ぜて話そうと思う。
私はHabitが発売されるより前からblooperを持っているが、Habitを未だに持っていない。両者違いがあるとはいえ、やはり両方6〜7万する高級品であるため、操作性の違いというだけで直ぐに手が出るものではないのだ。昨今の円安情勢を踏まえると尚更のこと。
はじめてHabitを楽器屋で試奏した時、MOODとblooperを持っているのに新たにHabitはいらないなと思ったのが正直なところだった。ルーパーとディレイという複雑に絡み合うその2つの関係性について、まだ気づき切れていなかったのである。
しかし、最近ライブをする機会が増え、操作性の重要さに気付かされた。dipスイッチをよく使う身としては、簡単にプリセットにアクセスできるHabitに茫々たる魅力を感じてしまった。dipスイッチはchase blissの魅力を何百倍にまで膨らませる存在であることを理解しているというのに、ライブでそれが使えないのはなんともどかしいことか。
また気づいたら買ってしまっているんだろうなあ…こうしてお金が消えていくのにももう慣れてしまっているのは本当に良くないなあ…

最後に宣伝と言っては何だが、最近やったワンマンライブのライブ映像を貼って今回の記事を書き終えようと思う。blooperやMOODをたくさん使っているので是非。


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