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やっぱり、「この」事かな

さて、2回目の投稿となるんですが、何について書こうかな、と考えていたんですが(ネタはそれなりにあるんですが)

例のマフィンの話について

今回はこれについてちょっと感じた事を、「パティシエ目線」と「経営者目線」で書かしていただこうかな、と。

いろいろな方がnoteやX、ネットメディアで発信されていますよね。概ね、「衛生管理がなってない!」とか「砂糖の分量が少ないから腐敗するんだ!」とか「オーガニック信仰の行き過ぎだ!」とかまあいろいろで。

僕も記事の全てに目を通している訳ではなく、見落としや思い違いがあるかもしれませんが、その辺りご留意いただいてお読み下さい。

「パティシエ目線」で見てみた

イベント(デザフェスですか)のために3000個のマフィンを1人で用意した、というのはパティシエとしては「よくやれたよなあ。」というのが正直な感想。

お店のキャパからして、おそらくそんなに容量のあるオーブンではないでしょうから、1回焼けるのが30個と仮定すると100回転。5日かけて焼いた、と記事には書いてありましたから、単純に1日あたり20回。


当店のオーブンです。3段フルに使ってマフィン150個位ですかねえ。

まあ、生地自体は他のフレーバーや果物を入れたりして共用出来るでしょうから、実際20回生地を仕込むことはないにせよ、朝から晩遅くまでやってもギリギリ、というより完全なキャパオーバーの感じでしょう。

1、2日目位は気持ちも体力もなんとか持つでしょうが、3日目以降となると眠気との壮絶な戦いが始まるでしょうから、ちゃんとやってるようでも何処かにヒューマンエラーが発生しても不思議じゃないな、と。

僕も若い頃は、朝から早朝まで?といった仕事もよくしていたもんなんで、「眠気」との戦いでの仕事の辛さは痛い程わかるんですよねえ。飯は要らないからとにかく寝たい!ってな感じで。

こちらのマフィンは、砂糖も控えめにして、生のフルーツや栗(これが原因みたいだけど、全くの生だと逆に食えんでしょうから、自家製の糖度の低い甘露煮とかを使ったのかな、と推察します。)を入れて販売されてたの事で。

トップの写真はクリスマスにはつきもののお菓子「シュトーレン」。中のフルーツはドライフルーツですし、焼き上がった後にバターを染み込ませ、粉糖(砂糖)をまぶして層を作ります。そうする事で日持ちもします。

クリスマスまで少しずつ切り分けながら食べる(アドヴェントと言います)ので、日持ちしないと話にならないですよね。先人はそういう知恵があったんです。

生のフルーツを入れて焼くのは、とても難しいんですよね。ネット記事でもそう書かれていた方おられましたが。


ピオーネを入れて焼いたタルト

上の写真はピオーネを入れて焼いたタルトで、飾りに使うピオーネの大きさが小さくて使えないものを一緒に入れて焼くんです。

これも生と冷凍したものとでは違って、冷凍したものの方が水分が出やすいので、オーブンの上火と下火の調整がとても厄介なんですね。つまり、果物の周りが火が通らない「生焼け」になってしまうんですね。

あのマフィンもおそらくそうなっていたのかな、と想像しますし、先に書いたように、何十回も作っている中で、気をつけているつもりでもどこかでヒューマンエラーが出てしまった〜「焼き」が浅かった〜んでしょう。

「経営者目線」で見てみた。

お店の規模とかはっきりわかりませんが、おそらく1人でやられていたという事ですから、自宅を改造してとかというレベルでしょうから、厨房設備もそれほどのモノではないでしょう。

上のオーブンの画像を見ていただいても、このクラスのオーブンを使っても3000個マフィンを作るというのは大変な事で、焼き上がった後急速冷凍して保管するか、脱酸素剤等を入れて保管するかの2択になります。

次の日に売るのなら冷蔵保管でもいいでしょうが、数日となると上の2択です。冷蔵ですと生地がパサついてきます。(水分が抜けます。)

厳しい言い方ですが、18℃のクーラーの効いた部屋での保管というのはそもそもあり得ない話なので、そのあたりの知識も足らなかったのかな、という感じですね。

今回が初出店だったのか、過去にも出店していたのか存じませんが、もし過去にも出店していて何もなかったのなら、それは「たまたま」、「偶然」が重なって事故がなかっただけなんでしょう。

デパート等の催事であれば、必要書類提出の他に、販売する商品の検査も行われますから、そこで引っ掛かるかもしくは食品に知見のあるバイヤーさんがおられたら「こんな状態の商品、大丈夫かな?」と感じてくれるかもしれません。

当日に少量づつ焼いて、会場が近場で自分もしくは関係者が持って行って、「消費期限は本日」という生ケーキと同じ扱いで販売してれば事故は起きなかったかもしれませんが、販売の様子の画像を見ると、結構大きなスペースにびっしりマフィンが並べてありましたね。

会場も東京ビッグサイトですし、相応に並べないと「映え」ないですし。「売ろう」とするとこういう売り方になるでしょうから、キャパを考えてもそもそも無理でしょう。

マフィン3000個ですから、売上としても相当の金額でしょうし、このお店にしてみれば、かなりのウエイトを占めるんじゃないでしょうか。

「売上」というのはどんな経営者でも欲しいものです。「いやあ、売上や利益は2の次だよ〜」という方もおられますが、とてもその域には達しておりません。

とはいえ、今回の事故での教訓は、

※自店のキャパ以上の仕事は受けない。

もうこれ一択です。

「砂糖の量が少ない」「焼きが浅い」「適正な添加物の添加」「衛生観念と食品管理の不備」は技術的な問題なので、通常のパティシエの方ならお解りになっているはずです。

キャパ以上の仕事はどこかに無理がきます。当たり前ですが。

それが結局「これくらいならいいか。」的な部分が出て、商品に不備が出てしまいます。

キャパを超える仕事をこなし、達成する事で成長するというのも一理あるでしょうが、食品となれば話は別で、場合によっては命に関わる訳ですから。

経営者的には、面白みはないのかもしれませんが、自分の目の届く範囲内で無理なく質の良い商品を提供するというのが今回の事故で改めて感じた所ですね。


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