太平洋戦争の勃発前、日本はアメリカ・イギリス・オランダから資産凍結や石油禁輸など経済圧迫を受けた。しかしそれは、日本がそれらの国と敵対関係だったからだった。（どころか、日本が既にイギリス・オランダとの戦争を決定していたことは以前説明した）。

　要するに、当時ヨーロッパでは第二次世界大戦が始まっており、イギリスはまさにドイツとの戦争中。オランダは、本国はドイツに占領されたが政府はイギリスに逃れて戦争を継続中。そしてアメリカも、まだ参戦はしていないが、やはりドイツとは敵対関係。
　そういう状況で日本がドイツと同盟すれば、日本もアメリカ・イギリス・オランダと敵対関係となる。そうなったら、それらの国が日本に対して全面的な断交も含む経済圧迫を加えてくるのは理の当然。
　しかし日本は、その危険があると分かっていながら、それを軽視してしまった。確かに、その後に事態が日本の期待通りに推移するなら問題は生じないはずだった。ところがそうならなかったため、日本は慌てることになる。

　以上の裏付けとして、とりあえず原書房『杉山メモ　参謀本部編　上』P45～からの抜粋↓（『杉山メモ』そのものではなく添付資料。筆者が人名を加えている）。

軍令部総長（伏見宮）
本同盟（註。日独伊三国同盟）ノ結成ニヨリ英米トノ貿易関係一層変化シ最悪ノ場合ハ依存物資ノ取得愈々至難ト認メラレ又日米戦争ハ持久戦トナル公算ノ大ナルカ支那事変ニヨル国力消耗ノ現状ニ鑑ミ国力持続ノ見通並ニ之カ対策如何

総理大臣（近衛文麿）
新事態ノ発生ニ伴ヒ英米トノ貿易関係カ一層悪化スルコトハ予想シ得へク最悪ノ場合ニハ輸入物資ノ入手全面的ニ不可能ナル事モアルヘシ我国ノ現状ニ於テハ主要ナル軍需資材ヲ英米ニ待ツコト多ク従ツテ相当ノ困難ハ免レサルヘシ従来如此際ヲ顧慮シ国内ノ生産ヲ拡充シ又貯蔵ニ勉メタルニヨリ軍官民ノ消費統制ヲ一層強化シ最モ緊要ナル方面ニ集中使用セハ相当長キニ亘リ軍需ニ支障ナク又日米戦争ニ当リテモ比較的長ク軍需ニ応シ得へク相当長期ノ戦争ニ堪へ得ルモノト考へマス

企画院総裁（星野直樹）
（鋼材と非鉄金属に関する説明があるが略）石油ハ国内生産僅少ナルヲ以テ鉄非鉄金属ニ比シ更ニ困ル陸海軍所要ノ分ハ夫々貯蔵シアルモノヲ使用スルノ外ナク非常ナル長期戦トナレハ固ヨリ困ルモ貯蔵ハ相当量アルヲ以テ差支ナカルヘク特ニ最近迄最大ノ弱点タリシ航空ガソリンハ第一、第二次繰上輸入並ニ最近ノ特別輸入ニヨリ相当量ヲ入手シ得タルヲ以テ他ニ比シ寧ロ有利ノ状況トナレリ固ヨリ円ブロック内ノ生産及貯蔵ヲ以テ陸海軍需官民需ヲ支フル事ハ不可能ナルヲ以テ結局ハ北樺太蘭印等ヨリ確実ナル取得ノ方法ヲ講スルコト必要ナリ

軍令部総長（伏見宮）
対米戦争トモナレハ海軍カ第一線ニ立チテ働クコトトナル其際軍需品ハ貯蔵、北樺太、蘭印等ヲ見込ミアルモ海軍ノ貯蔵ニテ長期戦ハ不可能ナリ此ノ長期戦ニ要スル石油ノ補充ヲ如何トスルヤ承リ度シ

企画院総裁（星野直樹）
油ノ問題ニツキテハ前述ノ通リナリ、（後略）

軍令部総長（伏見宮）
石油問題ニツキテハ大体確カナル取得ノ見込ナシト解シテ可ナリヤ尚一言スヘキハ「ソ」聯ノ供給ヲ待ツコトハ大ナル期待ヲ持チ得ス結局蘭印ヨリ取ルコトトナリコレニハ平和的ト武力的トノ二方法アルモ海軍極力平和的方法ヲ望ム

外務大臣（松岡洋右）
本協約ノ交渉ニ当リテモ油ノ獲得ハ最モ留意シタル所ニシテ英米ノ資本ナルモ和蘭ノ所有ニ属スル蘭印ノ石油ノ獲得並ニ将来日本ニ対スル企業ノ許可等ニツキ和蘭本国ヲ押ヘアル独乙トシテ何ヲナシ得ルヤヲオットー、スターマーニ質シタル所相当ノ骨折ヲナスヘシトノコトナリ又スターマーノ言ニヨレハ独乙カ今回仏国ニ於テ獲得セシ油ノ量ハ独乙カ昨年九月ヨリ現在迄消費セシ油量ニ勝ルトノコトナリ又「ソ」聯ハ忠実ニ対独経済契約ヲ履行シアリテ英国ノ喧伝ニ拘ラス「ソ」聯ヨリ相当ノ油カ独乙ニ送ラレツツアリ又ルーマニアヨリモ多量ノ油ヲ得ツツアリテ独乙ハ油ノ心配ナシトノコト故実ハ本協約ノ結果米国ノ禁輪ヲ受クルハ日本ノ最モ苦痛トスル所ナルニヨリ独乙ノ油ノ半分位ヲ日本ニ割譲スル様申込ミ置キタル所、彼等極力努カスヘシト云ヘリ又北樺太ノ石油モ大部又ハ一部ヲ日本ニ分譲シ又日本ノ同地ノ企業ヲ妨害セサル如ク「ソ」聯へ斡旋方依頼シ置キタル処日「ソ」国交調整後其問題容易ナルヘシト述へ居タリ

軍令部総長（伏見宮）
蘭印ノ油ノ資本ハ米英ノモノナリ本国政府ハ英国ニ逃レアリ故ニ和蘭本国ヲ押ヘタリトテ独乙カ蘭印ノ石油ヲ自由ニシ得ルヤ外相ノ所見如何

外務大臣（松岡洋右）
困難ナルヘシ「ダッチセール」ノ株ヲ英国ノモノト考フルモ会社和聞ノモノナル故株ノ故ヲ以テ英米カ文句ヲ云ヒ得ルモノニアラス在蘭印スタンダード会社ノ利権ノ如キハ「ス」会社ニテ戦禍ヲ恐レ日本ニ売却セントセル事サヘアリ成シ得レハ買収スヘキナリ