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【詩の翻訳】盲人の独白/エーリヒ・ケストナー

盲人の独白

すれ違う人たちは皆、
通り過ぎてゆく。
僕が盲人だから、僕には立ち止まる人が見えないのか?
僕は3時からずっと立っているのに……

今、また雨が降りだした!
雨が降っているとき、人は善良ではない。
そういうときに僕に出くわした人は、
まるで僕と出会わなかったかのようにふるまう。

僕は目を持たずに街中に立っている。
両目が鳴り響いて、まるで海に立っているみたいだ。
夜に僕は一匹の犬の後を追って走る。
犬は僕の手綱を握っている。

僕の目は8月に
12回目の命日を迎えた。
どうして破片は胸に刺さらなかったのか、
もう嫌になってる心臓に。

ああ、誰も手描きの
絵はがきを買わない、僕に運がないからだ。
小銭を、1枚1枚!
僕が自分で7ペニヒ払ったからだ。

かつては僕も彼らと同じように全てを見ていた。
太陽を、花を、女性を、街を。
僕の母がどんな顔をしていたか、
それは決して忘れない。

戦争が盲目にした。それは僕にもわかる。
そして雨が降っている。そして風もある。
自分自身の息子たちのことを考えている、
他人の母親がここにはいないからか?
そして母親が僕のための何かをあげるような
子どもがいないから?

Erich Kästner: „Monolog des Blinden“, Hrsg. von Ernst Meyer-Hermann[u.a.], Deutsche Gedichte für die Hauptschule, Frankfurt a. M.: Diesterweg,1966, S.47

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