ア・ムール

 閉じた貝を無理やりこじ開けたら、そこには真珠があるらしい。

 滴る海水を指で払うと、中にいる宿主が煩わしそうに潮を吹いた。ああ、ごめんなさい。ここはあなたの領地だったのね。

 しかし私は手を止めずにこじ開ける。なるべく優しく、そっと、その館の主をおびえさせないように、ゆっくりと。


出ておいで、そんな狭いところでひとりきりなんて、きっと寂しいに決まってる。

いいんだ、私は、一人でだって生きていけるもの。

そんなことを言って。ではどうして泣いているの。ぴゅうと潮を噴き上げて、どうして自分がここにいるよと証明するの。


 貝は黙った。上の方に穴。外は藻に覆われ、ところどころサメかなにか獰猛な生物に噛まれたのか歯形に禿げている。

 外に出るのが怖いのだ。その虹色した内側は、外の光を浴びなくては輝かないただの暗闇なのに。またそのか弱い体を晒して仕舞えば今度こそと、とんでもない怪物に食われてしまうのが怖いのだ。

 でておいで、私は境目にキスをする。滴る海水。味のしない涙。

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