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好き勝手放題の商売

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最近の記事

隣町の商店街

 ゆっくりと息を吸って、吐いた。浮上する意識。眩い光がどうッと押し寄せてくる。朝だ。  カーテンの隙間から漏れ出すそよ風と、元気に囀る小鳥の声。晴れ。少し水の匂いがした。昨晩降ってたのかもしれない。  ぐうっとのびて、ぼわ、とあくび。  どれだけ長い間眠っていたのだろう。眠りすぎたのかどうにも体が重い。しかし、生きていると実感できる心地の良い重さだった。  ぺたぺた、口を濯いで、ずんずん、パジャマの裾を踏んづけてリビングへ。  開けっぱなしにして眠っていた窓から風が

    • 神の友人

      「よく来たね」  花園。明日また切り刻まれる。その日も男の子は相変わらずふわふわとして、真っ直ぐで、優しかった。 「なにか悲しいことでもあった?」  すっかり散ってしまった桜の木の下、膝を抱えて二人で座った。私は何も言わない。機嫌の悪そうな空。雨でも降るかもしれない。  憂鬱だった。私は死なない。だからどれだけ切り刻まれようと、そのうち傷は塞がり痛みも忘れる。他の子がそうじゃないと気がついたのは、ある時町外れの急な階段から女の子が転げ落ちたのを見た時だった。  あの

      • ア・ムール

         閉じた貝を無理やりこじ開けたら、そこには真珠があるらしい。  滴る海水を指で払うと、中にいる宿主が煩わしそうに潮を吹いた。ああ、ごめんなさい。ここはあなたの領地だったのね。  しかし私は手を止めずにこじ開ける。なるべく優しく、そっと、その館の主をおびえさせないように、ゆっくりと。 出ておいで、そんな狭いところでひとりきりなんて、きっと寂しいに決まってる。 いいんだ、私は、一人でだって生きていけるもの。 そんなことを言って。ではどうして泣いているの。ぴゅうと潮を噴き

        • 獲物

          キスをする。手の中天を仰ぎ、そそり立つ硬直。 ぴくんと震えて、そのかなた上の方ではため息混じりの産声があがった。 劣情を押し込めるみたいな、呱々の声。  まだすこし柔らかいから握り込んだ。きっとまだ、物足りない。上げて落とす、上げて落とす。繰り返していくうちにあなたの意志は固くなる。  擦り上げて、ほおに寄せて、たまに唇でたるみをひっぱって悪戯する。猫がおもちゃで遊ぶみたいに、けれどそれよりもっと優しく大切に。  これは男の舵だった。  そうして愛しいその皮の感触

          瞳の太陽

           そこは花畑。  部屋をこっそりと抜け出し逃げ込んだ街のはずれ、またさらにその先。薄暗い袋のような森を抜けたころ、あたり一面真っ白な花が咲いている。手が届いてしまいそうなほど空に近づける場所がある。  そこまでの細い獣道をうきうきとした気持ちで走り抜けて、ワンピースの裾をはためかした。そこには大好きな男の子がいる。 「おかえり、また来たの」  会いたかったのだ。  私はいつも日が暮れたら家に帰らなくちゃいけない。そして夜の間は外から鍵のかかった薄暗い部屋の中、一人で

          瞳の太陽

          標本

           湿度が高い島の上だった。  つうと流れる頰の縁を追いかけようとして、その奥で射抜かんばかりの目と目があった。  私の心を釘刺しにして、虫の標本みたいに固定する。  なにも言わないのになぜか、逸らしてはいけない気持ちになって。  言葉にするのは野暮に思えて黙った。  そうも強く見つめられてしまったら逃げたくなる。私の粗が見透かされてるのではなんて、怖くなってしまうのに。  そお、と膝を擦り寄せようとして、失敗した。あなたの体がその間にあったから。  もう逃げられない

          助演

           男の太ももが射精に震えるのが好きだ。  どこか普通にしていても力の強い、骨張った体躯。どう足掻いたって自分の体と心とは違うそれが、ふるふると赤子のように崩れるさまが好きだった。  かっこよくあろうとする人が好き。自分の信念を持っている凛とした人だって、喜ばせることが大好きな人も、みんな。  しかしどんな大人ですら性の前にはこうべを垂れる。  お行儀のいいデートコース、お姫様扱いのエスコート。好きなものを覚えてくれいるその童心。ああそこに、一切の下心を匂わせない。