標本

 湿度が高い島の上だった。

 つうと流れる頰の縁を追いかけようとして、その奥で射抜かんばかりの目と目があった。

 私の心を釘刺しにして、虫の標本みたいに固定する。
 なにも言わないのになぜか、逸らしてはいけない気持ちになって。

 言葉にするのは野暮に思えて黙った。
 そうも強く見つめられてしまったら逃げたくなる。私の粗が見透かされてるのではなんて、怖くなってしまうのに。

 そお、と膝を擦り寄せようとして、失敗した。あなたの体がその間にあったから。

 もう逃げられないのだ。

 視線だけ競わせながら中心の熱を擦り合わせ、内の腿に硬い腰骨の感触。
 自分のつま先とつま先が触れた。


 ああ、もう、逃げられないのだ。


 恥じらう顔にほんの少しの本音をおり混ぜてほくそ笑む。
 汗ばむ首筋を熱心に舐め上げるあなたにこの唇は見えないのね。


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私の朝ごはん

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