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一枚の自分史:ピッピのサバイバル

ピッピは1990年、娘が十歳の時に我が家にやってきた。

知人のところに子犬が産まれた。一匹だけとてもおとなしい子がいた。
好きな子を選んでいいよということで娘が選んだのはその子だった。

ご飯をもらうのに他の子犬は我先にと行くのにいつも遠慮がちだった。
そのお家ではその子は紀子様と呼ばれていた。※1990年に秋篠宮様ご成婚
何やら品がいいからということだった。
娘はなんだかかわいそうだからと選んだようだった。

十歳の娘はとても正義感が強く学校でも男子を相手に向かっていった。
そんな彼女が選ぶのもちょっと気の弱いちょっと遠慮がちで割を食ってしまう、そんな一匹をだった。

やってきたその日からしばらくは隅っこに居たり、床に隠れていた。
庭で飼うことにしていたけれど、玄関のたたきで箱に毛布の端きれを引いて
しばらくはそこで育てた。
夜になると淋しいのかくうんくうんと鳴いた。
可哀想だからといって玄関に布団を敷いて娘は寝ていた。
おそらく布団の中に入れて寝かせていたのではないかと思う。

兄と妹は歳の差が三つ半、学年で四学年開いていた。
中学生になった兄は妹を顧みなくなった。
いつもお兄ちゃんの後を追いかけていたけれいつしか一人になっていた。
4年生になって学童保育もなくなり
家で一人でお留守番は寂しいだろうということで
きょうだいを迎えるつもりでピッピを迎えた。
名前は「長靴下のピッピ」からとった。

娘は嬉しくて、どこにでも連れて行った。いつも一緒だった。
学校から帰ってくるのが楽しみで転げるように走って帰ってきた。
この写真は、どうも家ではない。どこかで撮ってもらっている。
一体、どこに連れ歩いていたのやら。放課後の学校かもしれない。

ピッピはみるみる大きくなった。
ある日、会社から帰ると、先に帰っていた娘が
「お母さん、ピッピが先輩になっちゃった」
ピッピは娘より先に女の子になったのだ。

娘はクラスでは大きい方で運動もよくできた。
だけどいつまでも幼いところがあった。
クラスメイトたちがどんどん初潮を迎えていた。
結局、中学生になってからだったのでかなり遅かった。
そのことが本人は気になっているようだったけれど
全然そんなこと気にする必要なんてないのに…。

それからピッピと娘の立場は反転した。
それまでは娘に甘えていたのが、娘の方がピッピに甘えるようになった。
ピッピは一番末っ子だったのが、一階級、昇進して娘との立場は変わったようだ。

ピッピは父さんや兄さんのことが好きだった。かなりの男好きだった。
お父さんにはベタベタと甘えて、いうこともよく聞いた。
お兄ちゃんからはつれなくされても寄っていった。

私のことはただのご飯をくれる人だったし
娘の言うことは全く効かなかったし
反対に飛びかかって喧嘩をふっかけていた。
そして姉のように振る舞った。

子どもたちが大きくなって、構われなくなった。
いつもお留守番ばかり。
怖がりで、怖いから知らない人にはよく吠えた。
とてもいい番犬だった。
近所のねこにはやられぱなしだった。
それでもマイペースで、いつも気楽に生きていた。

十六年間を一緒に過ごした。
少しずつ衰えていって、認知も入ってきていた。
急に庭を走り出したと思ったら、パタッと倒れた。
心臓が弱っていた。走り出すと止まれないから、慌てて止めた。

骨のおやつをあげるとすぐにどっかにやってしまった。
いろいろあった庭のおもちゃがどんどん姿を消した。
ますますマイペースになって、自分の世界を作ってこもっていった。

そうかと思うと、隙を狙って家に上がってきた。
たまに母がやってくると、許すものだから
ピッピがこたつに入ってしれーっとしている。それには驚いた。

お別れの前の日、会社から戻ると
いつもは、犬小屋から出てこないし、知らんぷりなのに
そそくさとやってきて、何か言いたげに、それはじっと顔を見てくる。
とても何か言いたそうだったので
「どうしたん?何が言いたいん?遊んでもらいたん?珍しいなぁ」
なんや、今日は可愛い顔をしてるなと思った。
そう言いながら、用を片付けていて、すっかり忘れてしまっていた。

その次の朝、冷たくなっていた。
あれはお別れが言いたかったんやね。
ごめんね。分かってあげられなくて・・・。
冷たいお母さんやったね。

私は、遠縁に不幸があってと嘘をついて、娘は本当のことを言って
有給休暇をとって、ペット葬儀社さんで見送った。
娘は、会社で犬が死んだぐらいで休むのかと言われたと怒っていた。
大事な家族ですからと言い返したらしい。
娘は、拾ってきたお骨を家を出るまで部屋に置いて暮らした。

犬小屋は、何年も片付けられなかった。
数年後、小屋をどかせたら、下に大きな穴を掘っていた。
そこからおもちゃやおやつやらいっぱい出てきた。
まるで、サバイバルしているみたいだと思った。

ピッピの周りのものが消えだしたのは阪神淡路大震災後あたりからだった。
あの子は何のためにサバイバルしていたんだろうか・・・。
今も謎のまま。

面白い子やった。ありがとうね~。ピッピ。


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