『白い世界が続く限り』 第五話 【クリスマスイベント】

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第五話

 第四コースを滑ってくると、そのタイミングで場内放送がかかった。あと三十分ほどでイベント参加者は集合との事だった。
「お~、もう一、二本は滑れそうだ。休憩はどうする?」
 ナックさんが訊いてきた。
「あたしはもう一本滑りたいかな?いつみんは?」
「私ももう一度滑りたいです。」
 あの快感をまた味わいたい。
「じゃ、行こうか~。しおさんたちとの合流は後でいいっしょ」
 再びリフトに揺られて第四コースの山頂へ。リフトの上で今度見たゲレンデ景色は印象が違ってとても綺麗だった。そしてリフトを降りると躊躇せずに今回は撮影もないので三人めいめいに、ナックさんは躍りながら軽やかに、あきふゆさんはそれを追うように、私は自分の快感を確かめる感じで滑り降りた。
 やっぱり気持ちいい。意思と身体の動きとが繋がったような一体感。スキーボードは全然邪魔に感じない。むしろ履いてないって思うくらい。
 降りてくると見かけた顔のサンタが二人待っていた。
「おー、いたいた。良いじゃん滑り余裕だね!」
 しおてんさんが誉めてくれた。うれしい。
「あれ?みつまる板換えたの?」
 ナックさんがみつまるさんに話かけた。
「しおさんから借りて替えてきた。」
 見るとさっきまでの長めの白い板ではなく、狼の絵の一回りくらい大きな板を履いていた。あれもスキーボードなのかな?
「スキーボードって、色々種類あるんですね」
 私が率直について述べた。
「長いのから太いのから色々あるよー。興味があるなら乗り比べると楽しいよ」
 しおてんさんが自信有りといった風にニヤリと応える。
「直近だと来週だっけ?試乗会」
「来週の土曜日に清里高原スキー場でお待ちしています」
 ん?清里高原スキー場って、スキー教室で行ったところだ。
「あ、そこ知ってます。スキー教室で初めて行った所です。」
「お、そうなんだ。あそこ馴染みでね、毎年年末に試乗会やらせて貰っているんだよ。予定空いてるなら是非来てね」
 年末かぁ。仕事だったような気がするけどシフトどうなってたかな?もし空いてて清里高原スキー場なら、親に頼んで車を出してもらうのも出来そうだ。
「興味あり?私たち行く予定だからまた一緒に行こうか?」
と、あきふゆさん。
「行ければ是非!」
 休みかも判ってないけど思わず行くつもりで答えてしまった。テンション上がってるなぁ私。
 そんな話をしているとメガホンでスキー場のスタッフさんが「クリスマスイベントご参加のみなさん~」と集め始めていたので、一旦板を脱いでそちらに移動する事になった。場内放送でもアナウンスが流れ、程なく様々なサンタやトナカイ、雪だるまなどのコスプレの人達が集まってきた。人数は100名くらい?だいぶたくさん居るみたい。
 今回の参加者はこの第四コースを一斉に滑り、記念撮影と抽選会に参加する事になる。スキー場の方でその光景を写真や動画にしてネットに公開して、宣伝活動に役立てたいとの趣旨だ。
 そして今回の主役とも言うべき三名が現れた。ひとりは着ぐるみで地元の自治体のキャラクターらしい、白樺の切り株がモチーフの着ぐるみだ。その両脇に何だか妙にリアルなフサフササンタと、小柄な全身タイツのトナカイだ。
「お、きたきた~イベント名物」
 それを見て反応したナックさんに訊ねる。
「有名なんですか?」
「あの着ぐるみの中の人はめちゃくちゃスキーうまいんだよ~。で、サンタとトナカイスキーヤーはここのスクールの人で、これまた凄いんだわ~」
「え、中身ガチなんですか」
「そう。最初に彼ら三人が先頭でスクールの人達がフォーメーション組んで先頭を滑るんだけど、なかなかスゴいよ~」
「そうそう。恒例のデモ滑走だよね。その後彼らと参加者で一斉滑走!」
 ここで一旦リフト乗車が締め切られ、人が居なくなったリフト乗り場に着ぐるみを先頭に赤いサンタ達が並び、合図と共にリフトで登っていった。周りはイベント参加者だけでなく一般の人たちも集まり、盛り上がりを見せつつあった。
 私もドキドキしてきた。
 場内の音楽が切り替わりクリスマスソングになり、コース山頂には着ぐるみの三人を中心に赤い姿が横一列に並び、開始を合図する地元消防団のラッパが鳴り響いた!
 デモ滑走スタート!中央の切り株の着ぐるみがスタートを切ると順に横へスタートとなり、先ずはサンタたちが大きな三角形を作る。揃った動きで左右に、素人目にも上手なのが判る!
 着ぐるみとサンタ達は連なったり交錯したり、一糸乱れぬ動きで徐々に滑り降りてくる。マーチングバンドのようなフォーメーションはとても見応えがあった。
 そして最後に観客になった私たちの前で綺麗にVの字に彼らは止まると、
「メリークリスマス!」
 と揃って声を上げた!観衆はそれに
 
『メリークリスマス!!』

 とアンサーする!私も思わず声を出していた!

「いやー、今年もすごかった。盛り上がるねぇ」
 一斉滑走の為に登るリフト。隣はあきふゆさんだ。
「毎年あんな感じなんですか?」
「うん!ああやって綺麗に揃って滑るの、実は難しいらしいよ。さすがインストラクターだよね。」
 スキーって滑るだけに感じてたから、こういう楽しみ方もあるんだと私は驚いていた。スキーボードの自由な動きもスゴいけど、ああやって魅せる動きってなんかスゴい。
「あの人達にスキーボード履いて貰ったら凄そうですよね」
「ねー。もうとんでもない事になる気がする!」
 山頂に着くと先ほどの着ぐるみの三人とインストラクターのサンタたちが広がるように並び、その後ろにクリスマスイベントの参加者達が揃い始めていた。一斉滑走なので決まりは無いけど、先頭のちょっと目立つ二人の撮影のサンタを追い越さないようにだけはしてほしいとアナウンスがされていた。
 この中に私のようなド初心者が混ざって良いもの難だろうか……。
 と、ドキドキしていたらみつまるさんが話し掛けてきた。
「しおさんが今年も後ろで滑ろうってさ。」
「オッケー。と言う訳だから、いつみんも私たちの出だしに合わせて出てね!」
「え?え?」
「スキボはグラトリあるからね、目立たないと!」
「え、私滑るのしか出来ないんですけど!」
「いーのいーの。みんなとスピード合わせて滑れば!」
 何だか……ドキドキがバクバクになってきた。勝負所のサーブレシーブよりドキドキしてる。
 そこに、知らないスノーボードの二人が話し掛けてきた。
「おねーさんたち、去年も来てたスキボダだよね?」
 彼らは私を見て足元を見て話しかけてきたが、もちろん知っている人ではない。
「え?あ、私初めてで……」
「なんすか?」
 急に話し掛けられてびっくりしていた私。そこにみつまるさんが前に出てくれた。
「あ、急にすんません。オレらグラトリやるんで、もし去年の人たちだったらよかったら一緒にって思って」
 一瞬ナンパかと思ったら違うみたい。ナンパされたことないけど。
「あー。いいね。しおさーん、ナックさーん。ボードの人たちがグラトリコラボしないかだって。」
「あ、良いじゃんやろうやろう」
「ボードとコラボ?ん~、本気だすかなぁ」
 みつまるさんに呼びかけられてしおてんさんとナックさんの二人が合流する。
「去年見ててグラトリ良いなってなって、そっちの子確か去年コスプレ脱げかけてた子だよね?」
 視線の先にはロリッ娘サンタ。
「え?あたし?」
「そうそう、見ててめっちゃ面白かったよ。そっちのトナカイの人とかもグラトリすごかったし。そっちの子のお兄さんとか?」
「そっちの子って、このロリサンタ?」
「そうそう。」
「はっはっは~、たぶんこの子、君らと同年代か年上だぞ。年齢詐欺だからな~。」
「え?」
「はぁ?何言ってくれちゃってんのナックさん!どっからどう見ても22歳でしょうが!」
「え?マジ年上?じゃあそっちの背の高いお姉さんはもっと上?」
「え?……私まだ未成年ですけど……」
 一瞬世界が静かになった気がした。
「え?いつみん未成年?」
「はい。まだ18歳です。大学1年です。」
 まぁ、年齢が高く見られるのは割と慣れてるけど目の前のあきふゆさんは驚いてた。
「まーじーでー!同じくらいかと思った!」
「なんか、すみません。」
「……あたし早生まれだからもうじき23歳なのに……。」
 あきふゆさんも早生まれなんだ。ちなみに私は元旦に生まれたのでもうじき19歳だ。
 4歳も年上だったのかぁ。
 そんな私らの傍らで見比べているのが男性陣。
「なぁ。どっからどう見ても年齢逆だよな~?」
  ぼそりとナックさんが呟いたのが聞こえた。
「あきふゆさんはまだ中学生でもイケるっぽいから親子でも通用するんじゃない?」
「いやいや、それはさすがにいつみちゃんに失礼だろみつまる君」
「ボードの二人はどう見る~?」
「いや、俺らは……まあ多分同じ印象っすかね?」
「オレ、割とギャップ萌えなんでかなりいいっすね。」
 あ、隣からなにかよからぬ気配を感じる……。しーらないっと。

 男性陣にお昼代をおごって貰うということで無事に?話が決着したのち、ようやく一斉滑走の時間になった。
 参加者を交えての一斉滑走は特に取り決めがないとのことだけど、ガチで滑る人たちが先に、そして着ぐるみやインストラクターと混ざって滑る人たちがそれを追い、グラトリなどでパフォーマンスする人たちが最後に滑るそうだ。
 というわけで私たちは最後になる。先ほどのボーダーの二人と私たちはコラボして滑る話になっている。他にもいくつかボードなどのグループが待機しているので、グラトリ滑走は凄いことになる予感がする。なお私はグラトリがまだできないので、一番後ろから見物しつつ滑ろうと思う。
 ボーダーの二人は高島さんと山沼さんと言うそうだ。昨年のこのイベントでナックさんたちのグラトリを見てグラトリに目覚め、昨年はシーズン通してボードのグラトリを練習したという。私と同じ貧乏大学生らしいのでまだ買えないけど、いずれスキーボードもやりたいと言っていた。
 ボードのグラトリかぁ。どんなのだろう?ボードはやったことが無いから想像がつかない。
 と、意識をそらしていたらパーン!と運動会のピストルみたいな音が鳴り、ゲレンデにこれぞクリスマスと言う音楽が流れた。
 まずスピード自慢なスキーヤーやボーダーが声を上げながら滑り降りていく!それを追うようにデモンストレーションした着ぐるみやインストラクター達が、お客さんと一緒に滑っていく!
 少し間を置いて子ども達。見た目にサンタの恰好だし可愛い!って思ってたら凄いスキーもボードもうまいの、びっくりした。
 その子供たちを追いかけるように残っていたインストラクター達が連なって滑っていく。それが半分くらいすぎた頃、私の腰の辺りをポンっと叩かれて

「行くよっ!」
  
と、あきふゆさん達がスタートした!
 
 
 
 

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