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パンクロック入門 絶対に押さえておきたい知識と名盤まとめ

そもそもパンクとは?

70年代のパンクはフラストレーションを解放するレベル・ミュージックのムーヴメントだった。
政治や社会に対しての〝ファック・ユー!"アティテュード以上に、ぬるい音や長くて複雑な曲が支配していた当時のロック・シーンに、シンプルなロックンロール・チューンで風穴を空けるべく誕生したのがパンク・ロックだ。

70年代の半ばに勃発したパンクのルーツはそれこそ50年代にまでさかのぼるが、最も直結したのはブリティッシュ・ビートからガレージ・ロック(パンク)までの60年代のロックンロール・バンドたちだ。


パンクの元祖

米国のザ・ストゥージズがパンクの元祖であり、そのフロントマンのイギー・ポップがパンクのゴッドファーザーだと言われている。
ストゥージズはフリーキーで型にハマらず、ミニマルなほどシンプルでアグレッシヴな曲と暴力的なほどノイジーな音で、ロックンロールの肝を増幅。
イギーの芝居がかったワイルドな歌唱はパンク・ヴォーカルの始まりであり、パンクの原初的な価値観のニヒリズムに貫かれていた。

THE STOOGES/Fun House [1970]

かのデヴィッド・ボウイを魅了し、 SEX PISTOLSもTHE DAMNEDもグランジもオルタナもストーナーもまとめて呼び起こしたのが本作。
終始 “いけないことでもしてる”かのような匂いがプンプンし、そいつが鼻や耳に突き刺さりながら、 胸を、脳をかきまわしてくる。
デトロイトが産んだ史上最重要で最獣妖なバンドであるTHE STOOGESはTHEDOORSよりも破壊的で、 THE VELVET UNDERGROUND より獣臭が漂い、同郷のMC5よりも猥雑で、THE ROLLING STONES よりも魔界度が遥かに高め。 というわけで、 そんじょそこらのサイケデリックもフレアパンツの裾を持って逃げだすほど強烈にドラッギーなアルバムを残した彼らなのだが、1970年にリリースされた2ndである本作は中でももっともカオティックでデモーニッシュなアルバムだ。


パンク・ムーヴメントの始まり

パンク・ムーヴメント自体はニューヨークで始まった。
女装も含むグロテスクなほどケバケバしいヴィジュアルで、R&Bのダシの効いたロックンロールをやんちゃにプレイし、メタル方面でいえばバッド・ボーイズ・ロックの祖であるニューヨークドールズがパンクの門を開けた。
パンクは短髪というイメージも強かったが、ラモーンズに代表されるように男性でも長髪がほとんどだった。
ロックの伝統に対するスペクトの意識がそこに表われており、破壊ではなく応用して創造する音楽面にも反映されていた。
そんなニューク・パンク勢は、大雑把にいうと知的な”アート派"とプリミティヴな〝ロック派〟とに分かれていた。
前者がパティ・スミスやテレヴィジョンで、ジャズから触発されたインプロヴィゼーションを絡めた長い曲もやっていた。
後者はハートブレイカーズやラモーンズらで、シンプルな音とアップテンポの曲のパンク・ロック・スタイルだ。

Television - Marquee Moon (1977)


国内トップのギタリストでもある土屋昌巳氏がジャズマスターの最高のトーンが聴けるアルバムと絶賛するこちらの一枚。
ギタリストのみならず絶対に押さえておきたい名盤中の名盤だ。


The Heartbreakers - L.A.M.F. (1977)

NEW YORK DOLLS のパンクロック要素をジョニーサンダースが凝縮したバンド唯一のオリジナルアルバム。
ポップだがハードなロックンロール・オンリーで、本作の録音直後にMOTORHEADが同じプロデューサーのスピーディ・キーンと一緒に1stアルバムを作ったのも偶然でない。
また、ジョニーサンダースのミッドレンジがしっかりと出つつも輪郭を損なわないギターサウンドは今だに世界中のギタリストから支持される素晴らしいトーンだ。

Ramones - Rocket to Russia

むろん最初のアルバムである1stの「Ramoned」も良いのだが、ギターリストにはこの3rdアルバムをおすすめしたい。
以前の作品より格段にタイトな仕上がりになったがゆえに音のアタック感が5割増しで、疾走感もアップしてダイナミックに迫るのだ。
こちらも終生ライブで盛り上がった名曲多数だが、簡素極まりない歌詞も含めて究極のパンク・ロックの形と言える。

そして前者と後者両方のキャラを持っていたのが、ツンツン頭と破いたシャツ姿でボイドイズを率いたリチャード・ヘルである。
その"ロック派”のサウンドとリチャード・ヘルのパンクファッションはまもなくロンドンに飛び火した。
後期ニューヨーク・ドールズのマネージャーだったマルコム・マクラーレンが仕掛け人で、実質的にセックス・ピストルズの総合プロデューサーになってロンドン・パンク・ムーヴメントをリード。
パンク・ロックはまもなくマンチェスターをはじめとして英国の地方都市にも浸透していく。

Richard Hell & The Voidoids / Blank Generation (1977)

ルー・リードなどとの仕事でも知られるニューヨークの名ギタリスト、ロバート・クワインの痙攣ギターもかっこ良過ぎる!


パンク黄金時代到来!

そして「ロック派」のサウンドとリチャード・ヘルのパンク・ファッションはまもなくロンドンに飛び火した。
後期のニューヨークドールズのマネージャーだったマルコム・マクラーレンが仕掛け人で、実質的にセックス・ピストルズの「総合プロデューサー」になってロンドンのパンクムーブメントをリード。
パンクロックはまもなくマンチェスターをはじめとして英国の地方都市にも浸透していったのだった。

70年代の英国のパンクをストレートなパンク・ロックスタイルのバンドがほとんどだ。とはいえ、ロックンロールを基本にしつつも種類雑多。
例えばレゲエなどの他のジャンルを次々とミックスしたザ・クラッシュ、デトロイト・ロックとブリティッシュ・ポップ・サイケを融合させたザ・ダムド、ブリティッシュ・ビートやモータウンからの影響が強いモッズ肌のザ・ジャムという具合に、みんな我流でバラバラなところが聴きどころの一つともいえる。


The Clash - London Calling (1979)

ジャケットはデザインや文字の配色など、全体がエルヴィス・プレスリーのデビュー・アルバムへのオマージュとなっていて、写真はポール・シムノン( b)がベースを叩き割ろうとする瞬間がとらえられている。
内ジャケット両面にはぎっしりと手書きの歌詞が書かれ、裏ジャケットはミック・ジョーンズ( g、 vo)とトッパー・ヒードン( ds)、そして ジョー・ストラマー( g、 vo)のパフォーマンス時の写真がフィーチャーされていた。
ジャケットでは目立っていないが、 アルバム 全体の中心となりバンドをリードしているのはもちろんストラマーで、“ ロンドン は 溺死 寸前 だ ぜ” と性急に訴えるタイトル・トラックをはじめとして、どれも社会意識を前面に出し た楽曲を特徴としていた彼ららしいものが並んでいる。
オリジナル・アナログ盤は2枚組で出され、全 19 曲( ジャケットには 18 曲 分 の 表記 しか なかっ た)というヴォリュームであったが、それを一気に聴かせる熱量、 テンションの高さが当時のクラッシュにはあった。


The Damned - Damned Damned Damned 

解散状態の時期をはさみつつ21世紀もマイペースで活動を続けるオチャ
メな重鎮。
叫ぶことなくエロチックかつ醒めた調子で政治をクールに笑い飛ばし、ブ
ライアンが大好きだったヴィスコンティの映画のような小粋でユーモラスな
詞を歌うヴォーカルが、まず一般的なパンク・イメージを逸脱している。
グラマラスなソングライティングに裏打ちされた落ち着きがなくやかましくもポップな音は、当時はもちろんのこと以降のパンクロックの中でも群を抜
く加速度。一瞬でヤられるのだ。
一人一人がプレイヤーとして個性派だったのも大きく、五線譜も音符も無視しながらビシッとした演奏で驚異的なパフォーマンスを披露。
全員が音量とスピードを競うように演奏している。
シャープで粗削りのギターとブンブンうなるベースに加え、 ギターとユニゾ
ンのムチャなリズムで打っていたがゆえに破壊的なドラムも凄まじい。
楽器が飛んできそうな音像にもかかわらず分離よくタイトにまとめた“職楽器が飛んできそうな音像にもかかわらず分離よくタイトにまとめた “職人ミュージシャン”ニック・ロウのプロデュースも特筆すべきだ。
ライヴ・ハウスの最前列で観ている感覚に襲われる立体的な仕上がりで、 ラットは「ジェット戦闘機みたいな音」と評した。 裏ジャケの「ヴォリュームを下げてもでかい音で鳴るようにできている」という表示のとおり。
ダムドはメンバー・チェンジに伴って微妙に音楽性が変わっていくが、 スキャンダラスな話題に頼らず音楽だけで勝負してきたバンドだ。
わかりやすいにもかかわらずアナーキーな音作りと艶っぽく危険な香りの曲でマニアのツボも突く恐るべきこの作品は、80年代以降のアンダーグラウンドのガレージ・バンク・バンドやパンク・ロック・バンドのルーツとも言える。

The Jam /In The City

70 年代後半 には“ モッズ・リヴァイヴァル” と 呼ば れる バンドも出てきて いたが、ある意味先導者だからその枠を突き抜け音楽的に変化しつつパンク・ロックの先鋭性をキープしたトリオだ。
72年にバンドを始めたリーダーのポール・ウェラー(vo、g)を中心に、リック・バックラー (ds)、ブルース・フォクストン (b)という不変の3人に固まったのが75年。
活動が本格化してから拠点をロンドンに移したが、 そこから南西にわずか離れたウォーキングで3人が育ったことも、粗削りと洗練の間で綱渡りをしていたジャムの基盤だ。
これはそんな個性を凝縮して77年の5月に出したファースト。
ザ・フーやドクター・フィールグッドの初期などの英国産 “ビート・ロック” の伝統を踏まえた音であり、この時点でモータウンをはじめとするR&Bの影響も強い。だがsmartなモッズの美意識を貫きつつ、コシの強いビートに貫かれた骨っぽい音と目線の低い政治的な言葉を歌うスタイルで攻める。
若気を称える歌詞もさることながら、イントロのギターの鋭利なカッティングだけで時代を切り開いたジャムの宣戦布告である。
特にセックス・ピストルズとクラッシュのライヴに強くインスパイアされたポールは、 伝統を踏まえながらも情緒を削ぎ落とした青二才の体臭がプンプン匂い、文字どおり永遠のパンク小僧の原点の1枚。


Never Mind the Bollocks / Sex Pistols

そして最後に忘れてならない最強のパンク・ロックのアルバムと言えばこの作品である。スティーヴ・ジョーンズ (g)、ポール・クック (ds)、グレン・マトロック(b)、ジョニー・ロットン (vo) で結成。
75年11月のデビュー・ギグ以降、観た者が次々とパンク・バンドを始めたロンドン・パンク最初のバンドにもかかわらず、アルバムのリリースは最後とすら言える77年の10月末。
破壊力満点でありながらもポップで神経を高揚させる作品となったこのアルバムは、まさに真打として登場したった1枚で音楽シーンをひっくり返した。
そしてとにかくスティーヴ・ジョーンズのギターの音色が素晴らしいのである。ギターにとっておいしいミッドレンジがしっかりと出つつ、かつ輪郭を損なわない音作りは現在でも多くのプロディーサーやギタリストから支持される。パンクロックのみならず全てのギタリスト必聴のアルバムである。

過激なイメージに埋もれがちだが、英国のパンクバンドの音そのものは大半がポップだった。米国産以上にほとんどのバンドがブリティッシュ・ビートの洗礼を受けているのが大きく、パワー・ポップの要素の弾んだ音はセックス・ピストルズですら内包していた。ポップという点ではグラム・ロックからの流れも汲んでいる。

まずは 気になった作品から気軽に手に取って楽しんでいただきたい。
それから パンク・ロック/ ハード コア の 素晴らしい 世界 に 深く 入っ て いっ て もらえたら幸いだ。


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