海

連載『オスカルな女たち』

《 孤独な闘い 》・・・13

「なにしてんの?」
 確かに大きな荷物が運び込まれている。
「御覧の通り、ハイヒールの手入れよ」
 ベッドに横たわっているはずの特患さまは、来客用ソファに座り細かく手を動かしていた。
「このでかい荷物は全部ハイヒールか?」
 ロッカーの前に積み上げられている段ボールに目を見張る。
「そればかりじゃないわよ」
(そうですか…)
「見舞いがあるわけじゃないし、暇つぶしが必要でしょ」
(かもしれない、が、)
「家から送らせたのか…?」
「入院前に宅配便に預けておいたのよ、日付を指定して」
 手を止め、ゆっくりと立ち上がる。
「準備がいいね…」
「なにごとにもね、備えは必要よ」
 部屋の角の洗面台で手を洗い、窓際のテーブルに向かう弥生子(やえこ)。自宅から持ち込んだティーセットに手をかけ、「飲むわよね」と目配せする。
「エンジョイしてるなぁ…」
 思わず口をついて出てしまったが、充分に皮肉を込めて言っている。だが、当の弥生子はまったく気にする様子はなく、
「そろそろ来ると思って、セットしておいたわ。今日はローズヒップよ」
 言いながら鼻歌を歌い、湯気を立てて紅茶を注ぐ弥生子。
「そりゃ、申し訳ないね」
「いいえ。お安い御用よ」
 どっちが患者なんだかわかりゃしない…と、真実(まこと)は辺りをきょろきょろと見回した。

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