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シンデレラコンプレックス

第7話 『現実に生きる乙女はたくましい』4


多くのお姫さまは、王子様に見初められお城に連れていかれたのちに「しあわせに暮らした…」と、締めくくられる。

暮らした…とは、その後はなんのトラブルもなく、人生を「謳歌した」のだと思わされるが、果たしてそこには、本当に「しあわせ」だけだったのだろうかと疑いを持ってしまうのは、現実にはあり得ないと思い込んでいるからだろうか。

(いつまでも大人になれないのは、わたしだけ…か)


屋敷を出たあとも、なんとか歩多可ほたかと連絡を取り合うことが出来たのも、先に屋敷をあとにした養育係のおかげではあった。

由菜歩ゆなほは、あまりに派手な養父母の生活ぶりに自分の将来を憂いていた。そのため、幼い頃、自分と自分の母親の身の回りの世話をしてくれていた元養育係現・愛人を頼るよりほかなかったのだ。
それは、不本意ながらも、身寄りのない孤児状態の由菜歩には、まさに「天の助け」だった。

屋敷を出てからも養育係彼女と父親との愛人関係は密かに続けられていたのだ。そればかりか、屋敷を出て数年ののち、彼女が男児を出産したことから、立場も待遇も大きく変わることになる。だがそのおかげで屋敷との連絡が密になり、結果歩多可とも連絡を取ることが可能になった。

由菜歩の元に、歩多可からはしばらく手紙が届いていた。だが、それについての返事を返したことは無かった。返事をしようにも、そもそも手紙はただの紙であって、錠がかけられている訳でもないのだからして、自分の手を離れたらどこでだれが封を開けるとも解らないものにどんなことを書けただろうか。
なにより、継母の目にでも止まったら…と思うと、易々と手紙などしたためる気にもなれなかったのだ。ただ破り捨てられるだけならまだしも、どんなに素っ気ない言葉だろうと、中身を見られようものならたちまち怒りに触れるだろうし、身寄りのない自分がこれ以上どうなってしまうのかと考えるだけで恐ろしかった。もしかしたら連絡もつかないような場所に追いやられるか、本気で殺されてしまうかもしれないと思うと安心できなかったのだ。
それゆえ、由菜歩からアクションを起こすわけにはいかなかった。

業を煮やした歩多可は、出産を機に再び屋敷に出入りするようになった愛人である彼女を捕まえて、由菜歩の「様子を知らせてほしい」と頼んだのだという。

母親の死後、逃げるように去って行った養育係に、なんの遺恨も感じていないわけではなかった。幼い由菜歩にとってはむしろ、彼女が出産したことで「裏切捨てられた」のだと、それまでの関係すらも嘘であったかのように錯覚した。所詮、自分は「他人」なのだ…と思い知った瞬間だった。

子どもだったのだ。

今はまだそうとしかいいわけができない。

「わたしたちって、なんなんだろうね」
「なにが?」
「乾の家を出て自立した気でいるけどさ。離れて暮らしているだけで、まったく縁を切れてるわけじゃないじゃん」
「そうか?」

それは歩多可がいちばん身に染みているはずなのだ。



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