恋愛体質:étude
『カフェテラス』
1.greeting
「男は余計なことは喋らないけどさ」
「でも女はおしゃべりだわ。話を聞いているならせめて、相槌くらい打って欲しいものよね」
「喋り過ぎる男は逆にうざいけどね~」
「寡黙が素敵…な~んて感じることもあったけど。やっぱり会話が成立しないんじゃ、物足りない」
「欲しい言葉だけくれればいい。それは贅沢だって解ってるけど」
「きちんと理解できてもいないくせに、解ってるような顔をして微笑むのだけはやめて欲しいわ」
「こと恋愛に関しては、単細胞だし?」
「女ごころを理解して欲しいとまではいわないけれど、頭から否定されるのはどうなの?」
「幼稚なんだか、ただのバカなのか…」
「都合のいいところだけかっこつけて気を惹いといて、こっちの反応にはまるで気づかないなんて」
「解らないまま被害者面するのは…」
そこでふたりの言葉が重なった。
ズズズーっ…
目の前で捲し立てられているその様子を見ていた和音は、試合終了のホイッスルの如く頬がへこむほどストローを吸い上げた。
「もう一杯飲んでいいよね。あんたたちのおごりで」
そこでようやく、ここがカフェテラスの一席で、丸テーブルを囲む3人の周りの雑踏が機能されたような気がした。
「なんでそうなる?」
「またお腹壊すよ?」
「不協和音。あんたたちの噛み合わない話だけで充分消化不良なの。ぁ、すいません」
軽く右手をかざし定員を呼び止め、飛び切りの笑顔でこたえる。
「アイスカフェモカください」
「噛み合ってない…?」
「充分話通じてたよね」
「まぁふたりとも。彼氏の愚痴を言っていたことは解る…こ」
「そうよ」
またふたりの言葉が重なった。その妙な共鳴に目を丸くする和音は、呆れて「個々に」という言葉を飲み込んだ。
「まず藍禾」
と、左側に顔を向け、
「言いたいこと? 聞きたいこと? どっちでもいいけど、直接本人にぶちまけたらいいじゃない」
「そして結子」
今度は右側に顔をむけ、
「求め過ぎだって。黙ってほしいのか喋ってほしいのか、あんたたち毎回思うけど、彼氏が逆だったらよかったのにね」
「それいう?」
「ひどぉ~い」
「だって、毎回そうなんだもん。ダブルデートでもしてみたら? なにか新しい発見があるかもしれない」
「あぁタイプじゃないし」
「彼、人見知りだから~」
そんな事情、和音にとっては「あ~ぁ」でしかない。
「ところで和音は?」
「いい加減その二重層や、め、て」
「偶然だって」
「たまたまよ」
「で、どうなのよ」
「そうよ、例の彼」
ふたりが興味津々なのも無理はない。和音のお目当てはなにせ元ホストの起業家だというのだから、瞬き激しく返事を待つ。
「どうでもないよ。会ってないし」
「なんでよ」
「相手ホストよね、イケメンよね」
それが「普通」のことのように問う結子。
「元、ね。元ホスト」
「なに、和音。ホスト通いしてるってこと? どうりでつきあい悪いわけだ」
皮肉にも取れる笑みを浮かべる藍禾。
「してないわよ、ホスト通いなんて」
「じゃ~どこで知り合うのよ。どこで出会うわけ?」
執拗に絡んでくる結子。
「だから、会ってないもん」
「今さら隠さないでよ」
「そうそう。そもそも出会いのきっかけは?」
「あ~」
左右見合わせ、
「言わなきゃダメ?」
「だ~め!」
「だよね~」
気の重い和音は、観念したように口を開いた。
「バイト先のー、」
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