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シンデレラコンプレックス

第6話 『乙女の心は花と生まれる』5


花には「雄花」「雌花」があるから、性別もそこで決まるのだろうか。
そうだったのなら、生まれてくるまでの間に、男女どちらだろうかと気を揉む必要もないだろう。

そもそもおやゆび姫は、なぜ自分が在るべき世界に生まれなかったのか。

(花の種…だから? どこにでも飛んでいくのか)

おやゆび姫の冒頭は「花の好きな女性」が子どもを欲しがるところから始まる。その女性の愛でる花の中から生まれてくるという説もあれば、魔女から種を買うという説があるが、いずれもおやゆび姫はチューリップから生まれる。

確かに、なにかが入っていそうな膨らみだと、チューリップの蕾を想像する。

しかもおやゆび姫、生まれて間もないにも関わらず、次から次へと求婚される。

(また、結婚ゴール)
女のしあわせは、結婚なのか。
いつも同じところでつまづいてしまう。

今の世の中は「男」だから「女」だからという形式に捕らわれない生き方を選べるはずなのに、わたしたちは未だそんな拘りに縛られた時代に取り残されている。

「ねぇ。あんたは、結婚なんて考えたことある?」
珍しく机に向かう歩多可ほたかに投げかける。

「なに、いきなり」
ぶ厚い資料片手に顔をあげる。

「結婚って、しあわせのゴールなんだろうか」
「ゴールってこたないだろ」

「あのマネージャー。店長と結婚したくてしつこく絡んでるんだって。…ナナ江ちゃんが言ってた」
それまでまったく考えもしなかった話題が、急に身近になった気がした。

「へぇ」

これまで提出してきたレポートを捲りながら、
「お姫様、最後にみんな結婚するのよ」

「あぁ」

「ナナ江ちゃんも」
結婚したいのかな…と言いかけて、言葉を飲み込んだ。

「ナナ江ちゃんのところ、いけば?」
「え?」
「もう、大手を振って出掛けて行けるんだろ?」
「そうだけど」


『長男であるオレが外に出いる意味、君なら解るだろ』

普段なら真っ先に報告しているはずの由菜歩ゆなほだったが、店長に聞かされた身の上話だけは話せずにいた。

「いつもみたいに質問攻めにすればいいやん」

(なんだか『来るな』って言われた時より、行きにくいんだよな…)

「なんでそんなこと、あんたが気にするの?」

「あぁ。規矩也きくやのやつがさ、あれから頻繁に出入りしてるらしくて」
「店に?」

「どうも、ナナ江ちゃんのこと気に入っちゃったらしいんだ」
「ふぅ…ん」

(それであたしが出掛けてないことが解るのか)

規矩也は大学に入ってからの歩多可の友人なのだが、話に聞こえてくるだけで実際に会ったことはない。

「…えっ。それって、ライバル出現じゃん!」
「まぁ、でも。オレは相手がしあわせならそれでいい、っていうか」
「歩多可っていっつもそう。それって、女の子はむしろ不安になる」
「そういわれてもなぁ」

「だからって、あたしもどうして欲しいってわけじゃないけど、さ」
まして結婚など考えられない。

それは、相手が、だれであっても、だ。

「女は大変だな…」
そう答える歩多可もまた、おそらくはそんな将来を考えてはいないのだろう。


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