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恋愛体質:entrance

『 街コン 』

2.encounter

会場は、駅から少し離れた商業ビル2階にある洋風居酒屋を貸し切っての開催だった。
「どのくらいくるのかな?」
「貸し切りにするくらいだから、結構いるかもね」
砂羽さわ雅水まさみは、駅のトイレでお互いのファッション、メイクをチェックし颯爽と会場に乗り込んだ。

入り口で出欠の確認のあと、名札がわりに番号の書かれた掌大のシールを胸に張るよう手渡される。男性は1~5番、女性は6番からということで、砂羽と雅水のシールは『9』。
「どうやら最後だったみたいね」
受付のチェック表に目を落とし、賑やかな店内に目を凝らす。

簡単なプロフィールを記載するための用紙と、ペンを受け取り店内に入ると、女子は飲み物を注文してから各々好きなテーブルで待機する…という仕組みらしい。

「あたしハイボール」
「ちょ、砂羽。そんなかわいくない飲み物…」
「え、なんでよ?」
「周りを見なさい」
言われて先にテーブルについている女子や、席を決めかね店内を歩くキレイどころを眺めてみれば、みなカラフルなかわいらしいドリンクを手にしている。

「だから、なに?」
「ここから戦いは始まってるってこと」
そう雅水は小声でいい、
「…カシスオレンジください」
と、慣れた口調でかわいい飲み物を注文した。

「いいよ、別に。だってお友だち、、、、なんでしょ。ここでかっこつけたって…」
「ハイハイ。ハイボールね。ジョッキ持って歩いていく度胸があるなら構わないわよ。注目はされるかもね」
「わぁかったわよ…はぁ。じゃぁジンライムで」
あまり変わりないと思いながらも「そんなのくそくらえよ」といった飾らない砂羽の姿を潔いとも思う雅水。

「開始前だっていうのに、気合入ってるわね~」
ぐるりと店内を見回せば、すでに化粧映えのしそうな照明下のテーブルは陣取られていた。
「どこだって…」
同じだろうと言いかけて、雅水の視線におののく砂羽。
「ハイハイ。戦いは始まってるのね」
お遊びだといいながら、気合充分の連れの姿に「本気だったか」と、今さらながらにミニスカートの意図を知る。

ふたり座席に落ち着くも、砂羽は気持ちが追いつかず、
「ただ、待っていればいいの?」
「そうよ。時間で男の子が飲み物を持って移動するだけ」
「なに話すの?」
「なんでも。それも駆け引きでしょ。向こうが頑張って話題提供してくるわよ」
「話が続かなかったら?」
「砂羽。どうした? 借りてきた猫みたい。いつも通りでいいよ」
「だって、初めてだから。なんか緊張するっていうか…あんたは、慣れてるわ、けね」
「そんなことないけど、3回目だし。さっさとこのプロフィールカード書いちゃお。これがとっかかりよ、ほら始まる前に」

「…本日はお集まりいただきありがとうございます。それぞれのテーブルに心ばかりの軽食を準備させていただきました。ドリンクは飲み放題ですのでご自由にお楽しみください」
基本的に女性陣は最初の席を立つことはなく、飲み物がなくなったら「男子が運ぶ」というスタイルらしい。ゆえに選ぶドリンクに気を使うということらしい。

「それではみなさん、揃いましたので…」
主催者側の挨拶の元、最初の1時間は15分刻みで男性陣がローテーションで「席を移動する」とのこと、男性側が席に着いたらプロフィールカードを交換し、終了3分前のベルを合図に「LINE連絡先の交換をする」との指示がなされた。

「15分が長いのか短いのか解らないけど」
「それは話の内容によるよね」
ふたりはプロフィールカードを目の前に、背筋を伸ばしてすまし顔。まるで証明写真のカウンターを数えるように、前髪を直したり胸元を気にしたりと余念がない。

本日の参加者はふたり組男子が5組で10名、ふたり組女子が3組と3人組が1組、おひとりさま女子1名…と、人数的にはぼちぼちのボリュームだった。15分で5組のローテーションに1時間強、ひととおり会話が終わったあとは気に入ったグループを申請し再度親交を深める。または、残り時間は各々「フリータイム」として自由行動らしい。

係員の説明が終わると、徐々に会場がざわつき始めた。
「それではいよいよスタートです。皆様、よいご縁を!」


1.prologue  3.matching


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