連載『オスカルな女たち』
《 治りにくい傷 》・・・20
「よくいうじゃない? 好きになった相手がたまたま既婚者だった…って。でも、たまたまじゃないのよ、出会ってしまったら。好きになってしまったら、そんなことなりふり構っていられない。思いを遂げたいと思ってしまった時から、それはもう故意でしかない。譲れないのよ…。理屈では悪いことだと解っていても、その実『好き』だって気持ちだけは嘘じゃない。むしろ大事にしたい。…『好き』になることが、悪いとは思わない」
それは織瀬(おりせ)に語ったのか、自分に言い聞かせているのか、そう言ってしまってなにか思うところがあるのか、萌絵はそれ以上その話題には触れなかった。
「おりりんも、自分に正直になりなよ。自分の気持ちに嘘ついてると、ブスになるよ」
「え~、ブスはやだなぁ…」
「今度会う時が楽しみだぁ…。ブス、ブス、ぶ~す」
「もう~。やめて…」
笑いながら掌で萌絵の肩に触れた。するとその手を萌絵が握り返し、
「鎧も外れたみたいだしね」
と、意地悪な目つきで左手の薬指をつまんだ。
「これは…」
「いいのよ、別に」
「違うの。ホントに…」
結婚記念日当日、暗がりでちょき(ん)を抱きかかえる際に落とした指輪を、未だ見つけ出せずにいたのだ。
「わかってる」
織瀬は、そう言って微笑む萌絵にそれ以上言い訳するのをやめた。
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