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ゲストハウス有鄰庵

ゲストハウスの原点回帰、人と人がつながる宿。

岡山県倉敷市にあるゲストハウス有鄰庵は、倉敷市のなかでも一番有名な「美観地区」のど真ん中に位置する場所にある古民家ゲストハウスだ。
倉敷は古くから紡績業などで栄えた土地で、倉敷川沿い、日本初の私立美術館である大原美術館がある美観地区周辺は、国の重要伝統的建築保存群にも指定されている。

過去40年ほど前だっただろうか、国鉄のディスカバージャパンキャンペーンがあった最初の国内旅行ブームの頃、流行の観光地として脚光を浴びた場所だった。ただ、わたしが初めて倉敷を訪れた1990年代頃の印象は「綺麗に整えられているけれど、妙に整えられ過ぎて人の営みを感じられない」という少しネガティブものだった。

その後20年以上経ち、今は冷たい印象はまったくない。美観地区として大切に風景を保護しつつ、地元の人が一生懸命この地を盛り上げてきたのだろうなとわかる小さな地場のショップが数多く存在している。

その美観地区のど真ん中で、ゲストハウスをやろうと声を上げたのは、創立者の中村功芳さん。現在は、宿の運営を離れて全国を転々とまちづくりや地方創生といったテーマの講演や、本質を捉えるゲストハウスづくりのアドバイスをするなどNPO法人アースキューブジャパンの代表理事として、ますます多方面で活躍されている様子。

中村さんはとにかく情熱的な人だ。宿を始める前は倉敷のまちづくりの団体で10年ぐらい活動していたと言う彼。会社経営をしていて激務のさなか、たまたま屋久島に行ってそこでゲストハウスの魅力を知ったという。わたしも昔、初めてのひとり旅が屋久島で、当時は「素泊まり民宿」といっていたがいわゆるゲストハウス的な宿に泊まって、旅の魅力に取り憑かれたので、なんだか似てるなと勝手に親近感を持った。

これは当時のスタッフとともに撮影した写真。

美観地区のど真ん中にあるこの宿は、取材した2014年当時は昼間はカフェとなって行列のできる「しあわせプリンの店」としてもかなり有名になっていた。でも、話を聞くと、そのプリンブームを仕掛けるためにいろんな試行錯誤があってのことなのだと苦労話を聞いた。場所柄とにかく家賃が高いからゲストハウスの宿代金では賄えず、とにかく家賃をなんとかしないと!というところからのスタートだったそう。

もうひとつ、有鄰庵の特徴は、昔のユースホステルみたいなグループチェックインと自己紹介タイムがあること。強制ではないけれど、夕方にその日宿泊するチェックインする人が集まって、自己紹介をしあう時間があるのだ。この部分は、苦手だなと思う人とすごくハマる人の差が激しいかもしれない。

この時間のいいところは、そのタイミングでお互い名前や顔を知り、そのまま一緒に夕食を食べに行ったり銭湯に行ったりする人が必ず出るところ。スタッフがお客さんの様子をよく見ていて、シャイで自分からは話しかけたりしないけど、お話をしたさそうな人には話しかけるし、そっと放っておいて欲しい人にはそのように。おそらくスタッフ同士の当日チェックイン情報などの共有もきちんとされているのだろう。

そうした配慮ができるのも、きっとスタッフの数が多く、各自どんな仕事をすべきかきちんと教えられている質の高い人たちを揃えているからだと思った。今の有鄰庵は、さらに多くの事業を行っている会社のひとつになっている。多くのスタッフの優秀さは相変わらずのようで、それらがどんなふうに広く伝えられていっているのか興味は尽きない。

美観地区は夕方から夜の景色が本当に素晴らしい。まあ観光地と呼ばれる人気の場所はどこだって人が減る早朝や夜が最高に美しいんだけれども。とくに美観地区は真ん中を倉敷川が流れているので、川のほとりをのんびり散歩するのがやっぱり良い。

倉敷は有名観光地だけに、ざっくり名の知れた大原美術館や隣のカフェグレコなど定番地をうろうろするだけでもそれなりに楽しめる。今はさらにセンスのよい岡山名産のものを使ったカフェやショップも増えているし(有鄰庵でも「はれもけも」というショップを出している)、実は夜にしっとり飲めるバーみたいなのも結構あるらしい。そんな情報を知ることができるのも、ゲストハウスの魅力のひとつだと思う。



フリペとWEBをつくる人。ゲストハウスと旅にまつわるお話を書いています。ただいま書籍出版に向けて準備中!少額でもサポートしてくださると全わたしが泣いて喜びます。ニシムラへのお仕事依頼(執筆・企画・編集など)はinfo@guesthousepress.jpまでお願いします。