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「クーポンをアプリで表示」する事による生産性の課題。

タイにおいてもハイパーマーケット、スーパーマーケット、コンビニ等、独自アプリを持っている所が増えてきました。アプリを使う事で得られる企業側のメリットは色々ありますが、なかでもユーザーの囲い込みと個人情報が得られるというのは商品開発、サービス開発において大きな利点です。また従来は新聞の差し込み広告で入れていたクーポンを自前のアプリの中に入れる事ができれば広告費の低減にも繋がります。企業側にとっては効率の良くなる手法というのはある一面でみれば間違いないと思います。

ではユーザー側のメリットはどうなのでしょう。ユーザー側にとってのメリットは勿論高く、時間がある時に自宅などからスーパーの情報やクーポンを知る事ができる、そしてオンラインショップの機能があればそこから買い物をする事ができる等のメリットがあります。

ここだけみれば企業側にもユーザー側にもメリットがあって万々歳!という感じにも見えますが実際の現場になるとそればかりとは言えないようです。私もスーパーに頻繁に買い物に行きますが、レジがかなり混雑している時が少なくありません。勿論混雑のピーク時間にいけばそうなのですが、ピーク時間でもなく混雑しているときがあります。

それは何か、というとアプリによる混雑なのですね。アプリが作り出す混雑で代表されるのが(1)アプリをうまく操作できない人がレジのスタッフにアプリ操作方法を教わっている(2)クーポンの利用規約がわかっていなくてもめている(3)ユーザーのスマホが遅くて時間がかかる(4)ユーザーのインターネット接続が遅くて時間がかかる・・・等様々です。

(1)のアプリを操作できない人の場合はレジのスタッフがかわりに操作してあげるので少し混雑を作りますがそれでも我慢できる混雑です。(2)については結構ややこしくてクーポンが使える前提でショッピングカートに品物を入れてきたユーザーが、想定していた使い方が実際にはクーポン利用条件を満たしていないとわかり、どのクーポンを今回は使ってどの品物を購入するかをレジで考え始めます。時にはなぜクーポンが使えないとクレームをつけはじめて時間をかなり消費します。(3)についてはスマホOSのバージョンが対応してないのでは?と言える白画面をひたすら待ち続けるケース、(4)については月額パッケージの通信容量を超えたから遅いと愚痴っている事からわかるケース等様々です。

これらの項目だけみてもレジの混雑がアプリによって作られてしまう事がわかります。新聞広告のクーポンであれば、広告をレジで広げてレジのスタッフが手際よく対象クーポンを切り取って終わるのですが、アプリはユーザーのスマホの中、それも広告のように広げてみる事はできず、スライドしたりページを移動したり・・・とうまくいっている人でも時間はかかります。

このように、アプリを導入した事でレジの回転率が悪くなりレジ担当社員の「生産性」が落ちていくと、その結果として使っていないレジにも新たにレジ担当の人を投入しなければいけない事態になります。そこには商品陳列をしている社員を一時的に呼び込むから大丈夫と考える事もあるかもしれませんが、全体効率で見た時に、レジにマンパワーが集中して商品陳列にマンパワーが不足するという状況は、アプリによって明らかにレジがボトルネックにされてしまっていると言えます。

その追加労力の工数とアプリから得られる情報の価値を天秤で図れば資本力に勝る大手スーパー等では後者の価値が上回るのでしょうが、1つの店舗という現場における「生産性」という点でみると、残念ながらアプリによって生産性が落ちている店舗があるのは間違いありません。そしてその1店舗が2店舗、3店舗と増えていけばいくほど企業の「無駄」は大きく膨らんでいき無視できない利益圧迫、キャッシュの喪失に繋がっていく可能性もあります。

日本等の先進国と異なりタイは人件費が安い国なのでこの部分はあまりクローズアップされないのかもしれませんが、人件費が高い国やタイの小規模店舗になると、せっかく高いお金を払って作ったアプリが店舗全体の生産性を落としてしまい、「アプリは不要」という考え方が経営側にも社員にも認知されて運用中止になるという事も発生しています。しっかりとアプリを運用していきたいのであれば、継続的に「アプリ=便利」という部分を極めていく為にアプリの設計、UIやUX、操作フローといった部分の改善を続ける事が大切になります。

売上や粗利ベースでは見えてこない「隠れた生産性」は経営の課題です。生産性とユーザーにとっての利便性の双方を実現する方法は何がいいのか、アプリ構築を検討する際にしっかりとシミュレーションしておく必要があります。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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