少し欠けた花瓶に一輪の花を

中心街のちょっとしたネオンの色が、日が落ちてないというのに、いつもより五月蝿い気がする。昨日の驟雨で湿ったアスファルトによる乱反射のせいだろうか。そんな、ちょっとした変化がやけに目に映り、無関心でいたい気持ちを上回って疲れてしまう。自転車のブレーキの軋む音、自動車のタイヤと地面との摩擦音、誰かが足を擦って歩く音、何もかもが体の血の巡りを早めている気がする。周りに流されて失われそうな自分自身に意識を強め、確かな自分自身の存在があることを水溜まりに映った自分を見て確かめ、そして自分自身の足元を見る。確かな自分が存在することに安堵しながら、少しずつ闊歩する。見慣れた街並みだというのに、建造物の表情がなんだか豊かな感じがして、本当にここは私の知っている通りなのかと疎外感を片手に、首を横に振りながら足を前に運ぶ。建物の外壁には、黒いシミのようなものの付いた薄暗い店に目が留まり、中へと足を運んだ。そこは花屋だった。一期一会的なもので、気になった花を買って帰ることにした。薄紫色と白色の対照が綺麗な"エリカ"という花を買った。家までの帰り道、星が少しずつ隠れて灰色と黒色が目立つようになってきた。家に着いて少しすると、雨が地面と強くぶつかり、あちらこちらにミルククラウンを作るようであった。花を買ったことを思い出し、エリカを濃い鼠色の、そして見たことも聞いたこともない地名が書かれ、ひび割れた花瓶に静かに立てた。エリカは鮮やかに咲いているのだった。

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