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選ぶことなんてしたくないんだよ

最寄りの地下鉄駅は地上数メートル上空にあって
「地下」鉄のくせに頭上を走っている
ボクは頭上から走ってくる車両に乗り込み
毎朝地下へ潜り込んでいく

このヘンテコな地下鉄は
元を辿れば半世紀前のオリンピックの際に
市内中心部より外れにある競技場まで
既存地下鉄の延線計画があったのだが
地下トンネル工事が開催に間に合わず
苦肉の策で途中から地上にレールを敷いた結果らしい
”人を運ぶ”という目的だけを考えれば
地下だろうが地上だろうが”手段”の話なので
とるに足らないことかもしれない

陽の光が注ぐ地上から勢いよく
地下に吸い込まれる瞬間
空気が圧縮される轟音と車両の軋む音
地中の穴倉に飲み込まれ
行き場の失った不安たちが声を漏らす

声は走行する車両の音にかき消され
何事もなかったかのように吊革を持って
ボクは溜まっていたスマホの通知を確認する
タイムラインには今日も誰かの不幸と自慢のハイライト
評論家気取りの一般人がいいねの座布団稼ぎ
ボクも別にこれまで順風満帆だったわけじゃない
強がって何でもないフリをしていたら
次第になんでもなくなっていっただけで
心が摩耗しているのか、肝が据わってきたのか
良くも悪くも感度は鈍くなった

幾ら寝ても寝足りないくらい眠たくなる
心が疲れているのか何もする気が起きない
気が付いたら一日中布団の中
このままでは駄目だと思いつつ
気が付けば夢の中へ逃避行
今日も何もできなかったと
自己嫌悪の積み立て貯金
今の金利はいくらだろう
そのうち幸せの利息が付いて返ってこないかな

感覚が鈍っていくにつれて
感情の振れ幅が極端になっていく
思いっきり泣くか、なにも感じないか
おそらく加齢による前頭葉の硬化
そのうちヒトとしての尊厳がなくなって
どうぶつ的なものになっていくんだろうな

誰かが言ってた
好きなように生きていくのが一番だ
誰かが言っていた
逃げ口上を考えているだけだ
本当にどちらかに振れなきゃいけないのかな

高校生の時に沢山言われた
「もうオトナなんだから」と「まだコドモなんだから」
結局オトナとコドモの中間
コドナという言葉が相応しいのか知らんけど
都合のよいダブルスタンダード
なんかずるいよなぁ

地下鉄から降りて
近くのスーパーのワゴンの半額になった缶コーヒーを買う
冷えてない温いコーヒーは
いつもより甘さが際立って
足取りがまた重くなる
糖分を獲っても奮い立たないのは
身体のせいじゃない
この心に染みついたヘドロみたいな膜のせいだ

そうすべてはあの地下から這い上がってくる
あいつのせいなんだ


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