20代男性、何回目の青春か

 20代男性、明大卒、大手印刷会社勤務。絵に描いたエリートコース、順風満帆な人生に見える。社会の荒波に飛び込んでみて感じた理想と現実のギャップに、多くの20代男性が自分の姿と重ねる。そんなリアルな人物が主人公だった。

理想と現実にとまどい

 「社会人編に突入した僕の人生は、半ば妥協して手に入れた自分相応の夢から、さらに転落するように下降の一部を辿っていた。」(p.70)

 配属されたのは、企画部ではなく、総務部。クリエイティブな仕事を望んでいたが、実際は、”その他すべて”を受け持つ総務部だった。

 誰しも一度は、理想の20代を描いた経験があるだろう。直面したのは、良くも悪くも描いていたものとは異なる現実だった。「こんなはずじゃなかった」「いやいや、これから巻き返してやる」。理想と現実にとまどいを感じながらも、未来に向かってもがき進む主人公に、読者の多くが共感したと思う。

若者の街、高円寺、下北沢、明大前

 物語の中で登場した街は、明大前、高円寺、下北沢が中心だった。世間では、”若者の街”と言われる場所ばかりだ。勝ち組飲みを抜け出した後に、のちに彼女と再会した公園、初デートの集合場所となったヴィレッジヴァンガード。読んでいて光景が目に浮かぶ、細やかな情景描写が印象的だった。


―読書会を終えて―

 読む人によって、眼の付け所がこれだけ違うんだなというのが、率直な感想だった。その眼の付け所に対して、著者のカツセさんから、どんな意図をもって描いたのか、裏話を聞けた。一つ一つの表現で狙った意図、ストーリーは、どれも興味深かった。なぜ、その表現、言葉をつかったのか、カツセさんの思いを知ったうえで、もう一度読んでみたら、新たな景色を思い浮かべられるのかもしれない。

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