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かっちゃんに捧ぐ

かっちゃんこと川満勝弘さんが亡くなられた。2012年から糖尿病から体を壊し、目はほとんど見えず、足も覚束ない状態なのを風の噂や自分の目で見ているので覚悟はしていた。
しかし、21日の真夜中、夜勤の休憩中にLINEが入り、知人を通して訃報を知った途端に吐き気が込み上げてきた。泣くよりも先に体の中の臓器を全てぶちまけたくなるような強烈な吐き気が込み上げ、私はひどくえずき、隣の席にいたネパール人の技能実習生から心配されてしまった。
どうにか仕事を終えたものの、家についた途端に発熱し、寝込み、目が覚めたのは日付が変わる直前だった。
翌日はありし日のかっちゃんを偲ぶかのようにコンディショングリーンの音源をずっと流し、ぼんやりしながら横たわった。

かっちゃんへ。
初めて沖縄に来たとき、貴方の破天荒なエピソードばかり聞いていたから、私は貴方の店『ジャックナスティーズ』に行くか行くまいかギリギリまで迷ったよ。でも、行って良かった。シラフの貴方は驚くほど穏やかで優しくてはにかんだ笑顔で歓待してくれたね。だから、映像、雑誌媒体、ネット、人の噂話で見聞きした過激なパフォーマンスを息をするようにやってのける野獣のようなイメージとの隔たりが凄くて驚いたよ。
翌日、セブンスヘブンコザで行われた『オキナワンハードロックナイト』で、会場入りした貴方は控えめな微笑みを浮かべていたね。けれど、アルコールを流し込むように飲み、だんだん人格が変わる様を見た時は複雑な気分だった。ステージで披露した貴方しか唄えない独特の、まるで魚をぶつ切りにして大皿にのせたような『ホテルカリフォルニア』を呆気にとられて聴いたのを鮮明に覚えているよ。MCも凄まじかったなあ。複乳の女性と寝たという卑猥なMC。まことしやかに話していたけど本当に?聞きながら凄く混乱したんですけど。


2003年オキナワンハードロックナイトでのかっちゃん


そして、貴方はふと我に返ったように呟いたね。
「俺さ、来年はもう60よ。還暦よ。もうロックミュージシャンなんて辞めたほうがいいかと思うけどね」と。サングラス越しの貴方の瞳がどこか寂しげだったのに、なんで私は「続けてよ。Keep on Rockin'」なんて煽ったんだろ。続けて欲しかったのは事実だけど。かっちゃん。今さら遅いけど貴方を追い込んだんじゃないのかなと後悔してるよ。
かっちゃん、2004年の春、2度目の来沖で再会した貴方はとても恐ろしかった。明らかに深酒していて目がすわっていて。卑猥な言葉は聞き流せたけど、胸を握りつぶすかのように鷲掴みにされたあの痛みは忘れてないし、いまでも少し怒ってるよ。本当に痛かったからね。かっちゃん、あの時色々あったのかな?しんどかったのかな?だから荒れていたの?
それから数年が経ち、風の噂や、琉球新報や沖縄タイムスのweb版で貴方の近況を知るしかなかった。04年での出来事があったから、怖くて貴方に会いたくないなというのが本音だったんだ。ごめんね。
08年、知人と食事に行く際にミュージックタウンで待ち合わせし、その時に偶然貴方を見かけたからびっくりした。いや、痩せた貴方の姿に青ざめたよ。貴方は今にも大破しそうな車に乗って、かつての恰幅のよさの面影のない痩せた体にブカブカのシャツを身にまとってたね。でも、不謹慎かもしれないけど、そんな貴方の姿がまるで行者か聖者のように見えて神々しさすら覚えたんだ。
それから数日してゲート通りで貴方にばったり会ったね。きちんと栄養をとってと怒鳴りながら貴方に『ザズー』で買ったパンを手渡したことを悔やんでない。貴方にはお酒以外できちんとカロリーとって欲しかったから。かっちゃん、あの時渡したパンはあなたの血肉になりましたか?
そして、2012年の春。『ジャックナスティーズ』閉店を知ったときにはコザの象徴が消えた虚しさと、かっちゃんへのお疲れ様の気持ちが渦を巻いた、そんな感情が去来したよ。
そして、半年後。所用で来沖し、友人とランチをとった帰りに諸見里をふらふら散歩したら、偶然貴方に出くわしたんだもの。びっくりしたよ。貴方はジーン・シモンズか!とツッコミ入れたくなるような胸のあいた黒地にスパンコールが散りばめられたジャンプスーツを着ていたからさ。
かっちゃんと私が声をかけた時、あなたはゆるゆると進むと、私の頬に触れて「あー!前にパンをくれた子だね」と言ってくれたね。もうほとんど目が見えなかったんだね。かっちゃん。それでも、私のことを覚えていてくれてありがとう。嬉しかったよ。あと、頬に触れた貴方の手がひどくがさがさで、貴方の体がぼろぼろになっているのがわかって泣きそうになったよ。
そして、貴方は赤ん坊のように無垢な笑顔をして言ったね。
「僕ね、今年もピースフルに出たよ。来年も頑張るよ」って。
私はあの時、「うん。ネットで見たよ。これからも楽しみにしてるよ」と返したけど、本当はなんて言えば良かったのかな?
「もういいよ、無理しないでよ」と貴方に悲しまれるのを覚悟で言えば良かったのかな?
そして、この立ち話が永の別れになるのを確信したんだ。手を振る貴方に手を振り返し、遠ざかる貴方を見送ってから涙が止まらなかったんだ。拭っても拭っても涙が溢れてきたんだ。
それから、貴方がBEGINのプロデュースでソロアルバムを出したニュースを知ったときには自分のことのように嬉しかった、けれど、ピースフルに出る度に年々衰えて窶れていく貴方の姿をWeb記事やYouTubeで配信されるニュースで見る度に胸がきしむように痛んだよ。
そして、今、貴方の訃報にどうしていいのかわからなくうずくまっている。未だに感情が整理できていないんだよ。
ねえ、かっちゃん。今貴方はどうしているのかな?
オキナワンロックの重責から解放されて、本当にやりたかったことを楽しんでいるのかな?それとも、やっぱりロックしたいからと、向こうでエディさん、コーチャン、ジミーさんを巻き込んで天国と地獄縦断ライブツアーでも計画しているのかな?
どちらであっても、貴方が向こうで幸せでありますように。今はそれを願ってやまないよ。
かっちゃん。
今は心から笑ってますか?かっちゃん。

(文責・コサイミキ)

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