オキナワンロックドリフターvol.76

目を覚ましたのはチェックアウト30分前だった。朝食は諦めて急いで着替えて荷造りし、チェックアウトし、次の宿へ。
次の宿はパルミラ通りにあるコザクラ荘。文字通りコザクラを営むマサコさんが営むゲストハウスだ。
迎えるのはコザクラのヘルパー兼コザ観光協会のスタッフだというの野口さんという女性だ。マサコさんの計らいでチェックインを早めていただき、料金を野口さんに支払った。
さて、朝御飯を食いっぱぐれたし、今日の予定であるムオリさんたちとの飲み会まではまだ時間が充分すぎるくらいある。と、部屋で横になるとメールがきた。イハさんからだ。
「昨日は城間兄弟とは会えた?良かったらご飯でもどう?」
有難いことにコザ滞在中は面白いくらいに予定が埋まっていく。私はイハさんに「もちろん!」と返信すると午後13時に定食丸仲での待ち合わせを指定された。定食丸仲はテルさんたちコザリピーターの間で話題にはなっているが未だに行ったことはなかった。私は新しい楽しみができて上機嫌だった。と、その前に京都観光ホテルの朝食を食いっぱぐれたからブランチだ。コザ食堂でブランチと洒落こもう。
栄子マーマーは変わらない恵比寿顔で私を歓待してくださった。私は昨日の出来事を話すと、「あいっ!良かったねー。あんた、初めて来た時は正男さんのサイン見て、わんわん思い出し泣きしてたからねー。変わらず好きでいたからご褒美かもね」と、アイスティーをサービスして頂いた。イハさんとの会食があるから軽めの食事をとお願いしたら、サンドイッチかポーク卵を勧められた。パンという気分でないのでポーク卵にした。
心持ち薄めに切られたかりかりのポークと塩味の卵焼き、オーロラソースのかかった野菜が盛られた皿とご飯と味噌汁が置かれ、私は一気に食べ始めた。
ポークはミッドランドとのこと。スパムやチューリップとはまた違う薄い塩気、肉の甘味、ベビーハムのような食感が特徴的なポークの味が塩味のシンプルな卵焼きにオーロラソースがかかった野菜サラダとぴったりだった。
夢中で食べる私に栄子マーマーは後ろを見てごらんと指差された。
振り返ると、正男さんのサインの下に私が栄子マーマーにプレゼントしたメッセージカード代わりの色紙が飾られていた。いや、あの、私、一般市民ですよ。全くの無名人なんですが。
照れと戸惑いからおろおろする私に栄子マーマーはこう返された。
「あんたはある意味ここでは有名だからね。若いのに結婚もしないで沖縄の音楽について調べて、正男さんを変わらずに応援して」
結婚もしないでは余計だったものの、マーマーの心遣いが大変嬉しかった。
「これからもあんたはまたコザに来て、沖縄の音楽について調べものするんでしょ?」
マーマーは確信したような口調で問われた。一瞬未来予想をしてみたが、変わらずにコザ通いをしている私の姿しか浮かばなかった。
「もちろん!」と私は返した。
栄子マーマーにお礼を言い、私はイハさんとの約束まで散歩することにした。
パークアベニュー、パルミラ通り、一番街、ゲート通り、中の町、グランド通りを歩き、プラザハウスへ。プラザハウスのタートルブックストアで映画雑誌を買ってまた歩く、歩いて歩いて銀天街まで。昼間の銀天街は夜と違い飲み込まれるような闇に覆われておらず、歩きやすかった。しかし、ゴヤ十字路近辺とは違う閉塞感が辺りを包んでおり、私は一通りうろつくと近くのブックオフでホテルハイビスカスの単行本を買って足早に駆けてパルミラ通りへ引き返した。
宿に戻り、雑誌と単行本を鞄にしまうとイハさんへの手土産を身繕い、定食丸仲へ。
イハさん到着は私が入店した5分後だった。イハさんに手土産を渡すと、チョコレートをしげしげと眺め、「今問題のメラミン入りじゃないよね」と洒落にならない冗談をぽつり。思い切り首を振り、バレンタインが近いからと返すと納得して受け取られた。相変わらず、イハさんの冗談はきつい。
しかし、城間兄弟と会えたエピソードを話すと、「延長料金請求されなかった?」と混ぜっかえされたものの、思った以上に手放しで喜ばれた。
「まいきーくらいじゃない。ここまで沖縄ロック、いや、紫やアイランドについて調べたり、城間兄弟を好きなのって」
またおちょくる気か?と少し身構えていると「こら!にらまない!誉めてるんだよ。ジモティーは色々あの界隈のことを知っているせいかそこまで積極的に調べたりあの人たちと会おうとしないからね。貴重な体験だし、サイトは続けたほうがいいよ。そのうち、必ず役に立つから」と返され、「まずはおめでとう!」と水の入ったグラスで乾杯を促され、私たちは乾杯した。
イハさん一推しの定食丸仲のカツB定食は、沖縄ならではの薄く伸ばした肉をカリカリと揚げたとんかつと、中濃ソースやとんかつソースとまた違うフルーティーかつ酸味のあるソースがよく合っていた。
イハさん曰く、A1ソースがベースだからこういう味だとのこと。納得しながらカツをソースにちょいと沈めた。
結構なボリュームのカツB定食をたいらげると私たちはすっかり満足した。支払いはなんとイハさんがしてくださった。
1000円札を渡そうとすると「いいからいいから、念願の城間兄弟に会えたお祝い」と返された。
去るイハさんの後ろ姿に何度も何度もコメツキバッタのようにお辞儀し、カツB定食でパンパンになった胃をなんとかしようとまた歩くことにした。
今度はパークアベニューから中の町まで巡回。一番街はますます寂しくなり、再開発のために移転したかつて中の町や330号線沿いにある店が居心地悪そうな佇まいを見せていたのが印象的だった。
パークアベニューを見ると、ゆゆやの跡地がドラムスクールになっていた。
スクールのオーナーは當間嗣篤……。つ、ツグアツさん?元アイランドのツグアツさん?
世間の狭さに驚嘆しながら挙動不審状態で私はドラムスクールの外観をしげしげと眺めた。
一方でパークアベニューはまた閉店した店が増え、寂しさは増していくばかりだった。コリンザにお手洗いを借りるついでに寄ると、ベスト電器が撤退するようで大々的に閉店のお知らせが掲げられていた。
ますます衰退していくなともはや南国のピエリ守山と化したコリンザを見ながら深くため息をついた。
歩き回っていると喉が渇いた。冷たいさんぴん茶を自販機で買って飲もうかなと思ったものの、後で体が冷えそうだからと考え直してインド屋でチャイを飲むことにした。
インド屋のヴィクターさんは穏和な笑みを浮かべながら接客してくださった。お茶だけでは申し訳ないので、ブレスレットとお香も買うことにした。カカフェのカオリさんもそうだが、柔和な笑顔で接客されるとついつい買い足したくなる。ヴィクターさんは商売上手である。
やがて、チャイが運ばれた。ヴィクターさんお手製の本場のチャイはミルクの甘さよりも香辛料が強く、最初はエキゾチックな風味にうっ!と顔をしかめるも、香辛料からくる清涼感が喉を潤し、体の悪い部分が洗われたような感覚が広がり、全身を温めていく。
「お気に召されましたか?」
流暢な日本語で尋ねるヴィクターさんに「おいしいです!」 と返すとヴィクターさんは満足そうな笑顔を浮かべられた。
チャイでかなりデトックス+リフレッシュされ、疲れが取れた。
私は宿に戻り、シャワーを浴びて着替えると少し昼寝することにした。コザクラ荘の宿泊客は私だけのようで貸し切り状態だった。ムオリさんたちとの飲み会に遅刻しないよう、携帯のアラームをセットして、午後の柔らかい日差しを浴びながら私は夕方まで眠りについた。
日常の閉塞感や不安から遠ざかったからなのか久しぶりに熟睡でき、甘い微睡みが心地よい昼下がりだった。

(オキナワンロックドリフターvol.77へ続く……)
(文責・コサイミキ)

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