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そして伝説へ……

1988年から1994年までドラクエにはまった。
とにかくはまっていた。
特にドラゴンクエストⅢは冒険の書が全て消えても諦めずに何度も何度もやり直しして、ようやくゾーマの城までたどり着けた。
そんなある日、普段は私の好きなものを先回りして摘み取る母親が、

血眼でドラクエⅢに夢中になる娘の圧に恐れをなしたのか、珍しくドラクエの関連書を買ってくれたのだ。


『ドラゴンクエストⅢ 知られざる伝説』である。
何度も何度もぼろぼろになるまで読んだ。
はぐれメタルと幸せの靴のエピソードに驚き、牢獄のほこらで餓死同然で死んでいった勇者サイモンの、残した妻子とサマンオサの民への気持ちに涙し、父親思いのぱふぱふ娘のエピソードに和んだ。
巻末ではドラクエスタッフのインタビューがメインとなっていたが、その中で異彩を放っていたのが熱烈なファン代表であり、なんと、作曲家のすぎやまこういち先生のボーカルレッスンを受けてレコードデビューした鴻上尚史さんである。
読んだ印象は「あんたのドラクエ愛は伝わったから落ち着け!」だった。同時に、そんなに思いが詰まった曲ならと近所のレコードショップにてCDを取り寄せたのだった。それが初めて買ったCD、『そして伝説へ……』である。
  80年代テイストばりばりのギターソロにどん引きし、鴻上さんの、緊張のせいなのかギクシャクしたお世辞にもうまくないボーカルには呆れたが、CDが聴きすぎて音飛びするくらい繰り返し聞いた。

歌詞が心に浸透していったからだ。特に2番の歌詞は何度反芻したことだろう。

どこかできっと 誰かが
自由への道 求める
早くあいたい 笑いあいたい
あふれる思い 導く世界

小3の時に父親にファミコン機本体を癇癪から蹴り倒され、クリア目前だった『ドラクエⅢ』の冒険の書が全て消えて泣き崩れた時(その後に泣いたことでまた叩かれた。一生許せない)、小6の時にクラス内四面楚歌になった時、中1の時にクラスの主流派からリンチ紛いの仕打ちを受けた時、高校時代に不登校に陥った時、21の時に何もかもうまくいかずに病んだ時に心の片隅からふと『そして伝説へ……』が流れてきた。まるで、よるべない私の心を慰めるように。
そして、紆余曲折あったが、オンラインオフライン合わせて色んな場所で友達ができ、貧しいものの叶えたかった夢の半分以上が叶った時、私はふと、Googleストアにてスマホ版『ドラクエⅢ』を購入した。父親にクリア直前データを消されたショックと悲嘆で『ドラクエⅢ』が全くできなくなり、『ドラクエⅢ』クリアも、既に叶えた夢同様の悲願だったからだ。
休みの合間にコツコツと進めた。正直、スマホ版はファミコン版よりもイージーモードに改変され、少々物足りなかったものの、あの時のようにネクロゴンドの洞窟で道に迷いかけたり、ルビスの塔の回転床に悩まされた。
しかし、念願のゾーマ討伐を果たし、28年のブランクを経てようやくクリアできた『ドラクエⅢ』に目頭が熱くなった。
エンディング、『そして伝説へ……』が流れると無意識に口ずさんでいた。そう、鴻上さんボーカルの『そして伝説へ……』の歌詞をである。
胸に手を当てて、我ながらしんみりと唄う姿はさぞ滑稽だったろう。
けれど、擦りきれるまで聴いたこの歌をつい口ずさんでしまったのだ。

青空に耳を澄ませば
伝説の歌が聞こえる

伝説……ではないけれど、私の礎となる歌を流れるメロディーに合わせて歌ったら涙こぼれた。

(文責・コサイミキ)

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