コザアッチャーがミラクルシティコザを観てみたんだ。



さて。去る2月8日にミラクルシティコザを熊本ピカデリーにて観賞しに行ってきました。残念ながら蔓延防止対策の弊害か観客は私と60代くらいの女性の2人という寂しいものでした。(結局、集客が望めなかったのか、熊本では2週打ち切りの上映となりました。)

  正直期待3:不安7の割合で観ました。


ストーリーは、1970年代はドル札が舞い踊る享楽の街だったが、現在は観光客から素通りされる廃墟寸前の街、コザが舞台。

  主人公の翔太は何者にもなれず、父親が営むタコス屋である『オーシャン』の手伝いをしながら無為の日々を送っていた。そんな中、『オーシャン』に、不動産屋がやってくる。再開発計画による立ち退きの相談である。ライブハウスやストリップバーといったものを排除し、大きな商業施設を建てる話が出たのだ。しかし、『オーシャン』の前オーナーであり、かつては沖縄で人気を誇っていたバンド『インパクト』のボーカリストだった翔太の祖父であるハルは再開発計画を一笑に付す。しかも、不動産屋社長はハルの弟分であり『インパクト』のドラマーだった比嘉。比嘉は、かつての仲間である『インパクト』の元ギタリストで今ではパチンコ屋のサンドイッチマンになり日銭を稼ぐ平良、認知症が進行し、アメリカ人の妻と死別したことすら覚えていない元ベーシストの辺土名、そしてハルを冷笑する。

   そんな中、ハルが交通事故で急逝。泣きじゃくる翔太の前に亡霊となったハルがやり残したことがあるからお前の体を借りるとハルにタックルをかます。突き飛ばされた翔太の魂は1970年、52年前のコザへタイムスリップ!

   アメリカ兵の怒号に若き日のハルに憑依した翔太は萎縮するばかり、さて、どうなる翔太?そしてハルのやり残したこととは?という内容。


  感想は、懸念していたよりもきちんとまとまっていてエンタメとしてコザの街を描くのにはまずまず成功しているのではないかと。心配は杞憂に終わりました。

   『琉神マブヤー』、『ハルサーエイカー』、『闘牛戦士ワイドー』等を観ているせいか、それらのご当地ヒーロー番組を通して知っている沖縄の俳優さんやタレントさんが出る度につい頬が緩みました。特に翔太の父親でありハルの息子であるたつる役の山城智二さんが名バイプレーヤーとなったなあとしみじみする演技を見せたり、現在の比嘉役をされている津波信一さんのややヒール寄りの役どころの絶妙さに舌を巻きました。 

   一方で飛び交うウチナーグチでやや密度が濃くなり息苦しくなりかけるのを、現在のハルを演じる福島県出身の島ナイチャーである小池美津弘さんのウチナー訛り絶無な淡々とした台詞回しがいい緩衝材になっていたのも記しておきます。

  また、過去のハルを演じる桐谷健太さんのハルと翔太が憑依したハルのスイッチの切り替わりが絶妙でやはりクドカンドラマで研鑽された演技力ここにありだなと。翔太役の津波竜斗さんも負けておらず、現在のハルが憑依した翔太の時は目付きや醸し出す空気がまるで違い、個人的にはこれからもっと活躍してほしいと願うのです。

   が、反面。コメディからシリアスに急降下するくだりがいきなりすぎて混乱をきたすのと、詰め込み過ぎる場面とはしょり過ぎのさじ加減が極端でそこが残念ではありました。

   前者はコザ暴動の場面。『インパクト』のファンで彼らを慕うアメリカ兵ビリーが、とある理由でアメリカ兵を露骨に毛嫌いする比嘉に自身のバックグラウンドを打ち明けるくだりと比嘉が何故アメリカ兵を憎悪するのか判明するくだりやウチナーンチュがビリーをリンチするくだりがやたら詰め込みすぎて情報が大渋滞していました。

  尺を伸ばしすぎるとイデオロギー臭が充満してしまい、エンタメ性が削がれてしまうからなかなか難しいのでしょうが……。

   後者は、ハルの妻であるまーみーと『インパクト』を搾取するヤクザの火元がまーみーに撲殺されるシーン。その前に火元の銃の流れ弾で女性が死ぬシーンがあるけれど、周りがぼんやりして何もしない。周りの女性たちの目の下のくまからドラッグがなんかの中毒なんだろうなあ、彼女らもかつてのまーみーのようにヤクザに搾取されたかされたのかなーとうっすらわかるのですが、沖縄やコザの歴史を知らない人には、「え?なんで?」と置き去りにされた感があるのでは?と。

   コザ暴動のシーンでビリーをリンチしていたウチナーンチュがハルに住まいを訪ねて近所だと知ると戦意を喪失するシーンも、私は高村真琴さんの『コザに抱かれて眠りたいzzz』(ボーダーインク刊、現在は絶版)や、講談社文庫にて刊行された『沖縄ナンクル読本』にてコザの人々の地元意識の知識を得たのですが、それを知らない人には口あんぐりかと。それらのはしょりが沖縄の人や沖縄リピーターにはわかるけど、予備知識がない人を排除しているような内輪受け感を出していて人によっては不快感や疎外感を与えるのではないかなと思うのです。

  あと、まーみーがハルに出した手紙。字だけではなく、まーみー役の大城優紀さんの声を被せて、手紙のアップだけではなくまーみーの声と8ミリに映し出されたありし日のまーみーの姿とオーバーラップさせたらもっと良かったかなと一個人の意見としては思います。

  そしてクライマックス。

  翔太が憑依したハルの言葉をようやく信じた『インパクト』のメンバーと、翔太による歌がバラードなのに不満の声があるようですが私は良かったと思います。

  主題歌でもあるORANGE RANGEの『エバーグリーン』というこの曲。沖縄の陽の部分を濃縮還元したパワーポップバンドというイメージがORANGE RANGEにはあったのですが、こんな暖かいバラードを唄うバンドになったんだなと目を細め、ORANGE RANGEが結成20年を超えたことの深みと重さを曲を通して感じました。

   が、残念なことにラストシーンに落胆。もやもや感と静かな憤りがふつふつと募り、記されたテロップに、申し訳ないのですが「忖度」とか「ステマ乙」という言葉が脳裡を過り、同時に「いやいやいや、確かにあんたらの功績は大きいよ。でもさ、新人が育たないという声をコザの街でちらほら聞いたのは今から20年近く。それは今も変わらない。新人育成が滞ったその挙げ句がオキナワンロックの現状じゃねえのか?民謡のほうがきちんと世代交代がされてんじゃねえのか!」

  「沖縄ロック協会?まだいるのか!ロックなのに体制を作ったこの矛盾、どうしてくれる?」と苦酸っぱいものが胸にこみ上げ、はしたなくも中指を立てたくなりました。

  『ミラクルシティコザ』終盤、コザンチュたちに不動産屋の若手営業マンが身も蓋もない暴言を吐くくだりがあるのですが、クソナイチャーと罵倒される覚悟で「わかるわー」と営業マンに同調したくなりました。すみませんがね。

   とはいえ、全体的には悪くなかったし、映画を通してコザを知り、コザを訪れる人が増えるのは確実でしょう。私自身もコロナ禍が落ち着いたらまたコザの街を探索したいなとスクリーンに映る良くも悪くもありのままのコザを見て思いました。

  DVDなりBlu-rayがリリースされたら真っ先に買うでしょう。

   しかし、だからこそミラクルシティコザどころかスポイルドシティコザにしている、今のコザを取り巻く色々なものに、一コザリピーターとして歯ぎしりをしたくなります。遠く離れた場所にいるコザアッチャーの末端の言葉なぞごまめの歯ぎしりにもならないのが現状ですが。

   でも憤りたくなるのです。

(文責・コサイミキ)

   

  

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