S #8

おれ、は、酔っ払うと人を刺したくなる。刺し殺したことは数えられるほどではあるのだが、普通は刺し殺すことはないのだろうから、これは逃れられぬ本能なのだろう。

今回は純然たる、火の粉払いであり、任された仕事であるが、やはりなんの利害関係もない悪人(いなくなっても誰も困らないヒト)を刺したくなることもある。

最後にそういうことをしたのは三人ほど前だったな。そういうことをすると、わたし、や、私、から叱責されるので、あまりしないようにしているのではあるが、それにも関わらず、我慢できないときはある。所詮、本能は理性では抑えようがない。

口ではなんといおうが、人間は同族殺しをする、してきた、生き物なのだ。とある時代においては、カニバリズムさえ行われていた。私も試してみたが、動物性蛋白質を摂取したヒトは、臭かったので、食べることはやめた。単純に美味しくはないし、それで興奮するような方向性の変態ではない。

おれ、は単純に、生きた人の肉を裂くとき、そしてまだかろうじてヒトである、そのヒトが、肉を裂かれたとき、発する声にならない声、それに興奮するのだ。


今回はあらゆる限りの延命をはかったうえでの、絶命だったので、我が身に降りかかった火の粉とはいえ、ソレを堪能することはできた。至高とはいえないものの、楽しい数時間だった。


さて、この四角い、たかが70cm四方にも満たないモノに化した、この物体の始末は、いつもどおり、沿岸7km沖の海の上である。ここであれば、海流にのって、岸に漂流することもない。魚達に食いつぶされるか、はるかなる海底に永遠に沈むか、どちらかである。


もはや、声の発することのない、物質となった、もとヒトよ、さようなら。おれ、たちに絡んできたお前が悪いんだよ。おまえの来世は所詮、畜生だとは思うが、まあ、次に運良く人間に生まれ変わったときには気をつけろよ。

じゃあな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?