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文学としての舞台「チャージマン研R-2」(ネタバレ含む)前編

 ある縁があって、新宿Faceで行われた舞台「チャージマン研R-2」を観劇することとなった。昨年に引き続いてのアンコール上演、こちらもアンコール観劇となった。ユニコーンのメンバー、手島いさむさんが音響担当をつとめ、魔王役では仮面ライダー555など有名ドラマにも多数出演する村上幸平さんが出演している。アニメ「チャージマン研!」についての言及や説明はさけ、ただ本舞台にのみ触れることとする。

 ミュージカル作品として、演劇作品としてや、2.5次元ミュージカルとして眺めると、私たちは困ってしまうことになる。以下に、このミュージカルが孕む、私たちのあらゆる解釈を拒むいくつかの特異点をあげる。

①東西南北の観客席に座る観客が舞台を取り囲んでいる。
②ニコニコ生放送で同時配信し、東西席の後ろにはコメントが流れる。
③主人公チャージマン研が複数人(4〜6人、時にはそれ以上)存在する。
④前半部の人気投票の結果トップのジュラル星人が、後半部のチャージマン研として演じる。
⑤完全再現という名の下、アニメに合わせた棒読み・フリーズ、激昂が点在。

 枚挙に暇がないのでここでやめておく。緊張と緩和、メタい演出、〇〇ゴンボールや○剣乱舞、○滅の刃などの小ネタが酒場での会話のように繰り広げられ、観客は突っ込む暇も与えられないままに笑い続けるしかない。
 なぜか東北鈍りの研、アムロ・レイが憑依した研、そしてバランスボールがあてがわれたヴァリカンが急に舞台袖から投げつけられ、演者たちは必死に「ヴァリカン!!」とボールに向かって叫ぶ。アニメ版での空耳に演者は寄せて発音し、魔王が「発射!」と叫ぶと、スクリーンは「ほっしゃん。」というコメントで埋め尽くされる。

(写真はちくわを咥えるキャロン。禰豆子がモチーフになっている)

 キャロンにちくわの中にきゅうりを入れさせ「なんか、ドキドキするわね」と言わしめ、同時に「このちくわはお兄ちゃんがピンチの時に…」と本編への伏線にもなっている。しっかりと4人の主人公に分割されて彼(ら)のピンチを救うちくわにはなぜだろう、感動さえ覚える。

 ドラマ「半沢直樹2」で、堺雅人の好演がドラマ全体の空気をピシャリとしめ、だからこそ香川照之や片岡愛之助は好き勝手にふざけてもドラマ自体は壊れず、むしろ笑える構成になったのと同様、
 魔王役の並外れた演技力、4人の研のうち一人は原作そっくりな棒読み、研の父親泉博が登場すると、新宿Faceがミュージカルに早変わりする。あと、キャロンが可愛い。

 と、ここまではなぜ隙間だらけのこの舞台が笑えるのか、緊張と緩和の分析に過ぎない。10年前に隆盛したニコニコ動画の真骨頂とも言えるコメント芸(しかも治安がいい)と、ハイレベルな歌と演技の中に現れるあまりにも下らなさ、無駄にキレの良いダンス、「シュール」と片付けるには恐れ多いほどの緊張と緩和の連続で観客は飛沫に注意しながら肩を揺らす。

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