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「マルタ島の伝説 幻の地下都市発見」・・・地中海に浮かぶ島に伝わる謎。



『マルタ島の伝説 幻の地下都市発見』

港に連なる城壁が、朝日を浴びて輝いていた。

ストレスがたまるばかりの日常が嫌になって、飛び出す様に都会を離れ、 一人で地中海までやってきた私には、その絶景はとても眩しく思えた。

世界屈指の入港風景といわれるマルタ島バレッタの港。
蜂蜜色と呼ばれる、淡いベージュ色のマルタストーンで作られた城郭が
入り江を見下ろす様に立ち並んでいる。

マルタ島は、地中海のほぼ中央にあるため、古代ローマ時代から様々な国が支配し、交易の拠点として発展してきたのだ。


島に降り立った途端、一人の老人が私に近づいてきた。

「あんた、何しに来たんだい?」

家族連れのリゾート客がほとんどの港町では
若い男の一人旅は珍しいのだろう。
何かを警戒するように目くばせをしながら老人は言った。

「もし地下都市を探しに来たんだったら今すぐ帰りな」

「地下都市? 何ですそれは?」

「なんだ知らんのか」

老人は酒臭い息を吹きかけて続けた。

「この島にはな、16世紀にマルタ騎士団が作った
馬鹿でっかい地下都市が隠されている、という噂があるんだ」

男の言うマルタ騎士団とは、巡礼の警備と保護を目的に結成された騎士団のひとつで、当初は、人道的な配慮から看護と治療を目的した赤十字のような部隊だったが、十字軍の遠征と共に、豊富な資金と軍事力を手に入れていったと言われている。

「そのマルタ騎士団が、島が戦争に巻き込まれた時の為に、
地下に広がる大都市を築いた。今もその遺跡が島のどこかに
残されているというのさ。馬鹿馬鹿しい。いいかい。これを見な」

老人は、上着のポケットから皺くちゃになった紙を取り出した。
広げるとそれは、3フィート四方の大きさのマルタ島の地図であった。

「今まで何十人という男たちが、地下都市を探して島にやって来た。
そして毎回のように、地下都市発見と騒ぐが本物だったためしは無い。
せいぜい小さな地下室や陥没した洞穴の跡だ。
地下都市なんて伝説さ。どうだ!」

老人は古ぼけた地図を私の顔に押し付けるように差し出した。
私は、すえた匂いがする地図を受け取り見直した。

地図には、島全体を覆うように小さな赤いバツ印が無数につけられていた。

「もし誰かから地下都市の話を聞かされたら、
絶対信じるんじゃないぞ。
地下都市発見なんていう奴は、皆大ホラ吹きのウソつき野郎さ。
そんなものは無いんだよ! そんなものはある訳ない。
騙されて金も時間も無駄にするのが精々だ。
あんたも、そんなものは無いと思うだろう」


私は一つ理解した。この地図に書かれている×印は、
今までに地下都市があると言われて調査した場所だ。
きっとこの老人も、いまだに探し続けているのだ。


そして「そんなものは無い」と誰彼構わず言いながら、
誰かに「そんなことは無い」と言って欲しいのだろう。

だが私は、この老人が少しだけ羨ましく思えた。

組織にしがみつき、日々の糧は手に入っても、
無目的に漂うような、いや逃げるような毎日をおくっている自分の人生が
虚しく思えたのだ。


「いや。きっとありますよ。見つかりますよ」

俺の答えを聞いて、
老人は皺だらけの顔に微かな微笑みを浮かべた。

「そうか、あるか。馬鹿がここにもおるわ。ある訳ない。ある訳ない・・・」

そう言って老人は私の手から地図をむしり取り、
背中を向けて歩いて行った。

追い求め続ける限り、夢は消えることは無い。

どんなに不確かなものであっても、信じることが出来るなら
そこに人生を賭ける価値はあるだろう。

港の伝説は、今も蜂蜜色の城郭の下で、
発見される日を待っているのかもしれない。


                        おわり


マルタ島は、地中海、イタリア半島とシチリア島の南にあるマルタ共和国内の最大の島。
首都であるバレッタは島の東部にあり、美しい市街は世界遺産となっている。
十字軍の際に結成されたマルタ騎士団の本拠地として、
オスマン帝国との戦いでは要衝となった。



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