見出し画像

「歳抜け」・・・幅が広がったのに。

「歳」が抜けている。

問題だな。と思ったのは、
あるナレーターの卵が、「今の映像で(享年60歳)とテロップが出ていましたが、(享年60)でなくて良いのですか?」
と言い出した時である。

「ああ。とうとう言う奴が出て来たか」というのが、その時の感想だった。

本来、享年を言う時には「○歳」と「歳」を添えるのが常である。
葬式や位牌、墓碑を見ればそうなっている。

AIが作った日本のお墓。

御存知の方もいらっしゃると思うが、テロップと呼ばれるテレビの画面に出る文字情報は、画面の性能や規格によって、その形態が左右される。

テレビの黎明期から1980年代前半までは、手書きのものがほとんどであった。
具体的には、B5サイズくらいの一枚一枚黒い紙に白のペンや筆で文字を書き、その紙を別のカメラで撮影して文字を画面に写し込む。
昔の歌番組などを観ると、柔らかな手書きの文字で歌の題名や歌手名が表示されていて、歌詞が出る事はほとんどない。

それが、印刷会社の写植技術が導入され、写真のL版くらいのサイズの印画紙に、黒字に白文字で文字を焼き込んで作るオペークカードと呼ばれるものが使われるようになった。
それを専用の機械に差し込むと機械の中のカメラが撮影して、画面に文字を写し込む。文字に間違いがあると、その場で紙を切り貼りして修正する。
ADは、五十音表や、よく使う漢字や数字などを予備で作っておいて、
非常時に対応していた。修正が上手いADは重宝された。

その後、島精機という織物の会社が、布や絨毯のパターン(柄)や文字を
テレビ画面で確認して調整している事を知ったテレビマンが、
「画面に出せると言うことは、放送に乗せられるということだ」
と思って、局に導入。
一時期は放送局の80%くらいが島精機の製品を使っているという噂もあった。当時この機会が壊れると「僕は和歌山(嶋精機本社)まで旅に出ています」などと書かれた紙がスイッチャーの卓に貼られていた。

その数年後、海外では、AmigaやAdobeなどのCG製品が発達し、
テロップはスイッチャーのある現場で直接入力するという作り方が発展したが、日本語のフォントが対応できておらず、日本ではやや遅れて導入された。

それでも、日本語のフォントメーカーが対応出来てくると
あっという間に打ち込み型のテロップが浸透し、
写植を請け負っていた印刷会社は困窮し、業務形態を見直さざるを得なかった。
これも同様に、一時はADの能力に頼っていたが、クオリティを求められるようになると、いくらかは印刷会社デザイン会社にゆだねられるようになった。

さて、
テロップの話に戻ろう。
「享年〇歳」と書くようにしたのは、
画数の多い「歳」を白ペンで手書きで書くと、滲んだり潰れたりして
余り良く見えないのと、当時テレビはハイビジョンではなく、画面の横と縦の比が、4:3のスタンダードサイズだったため、横幅の文字数に制限が多くあったからだ。あと「一文字いくら」という風にテロップの料金が請求されていた会社もあったことも文字数の削減に影響していただろう。

それがハイビジョンになり画面の比率が16:9になり、
やがて文字の乗せられるスペースも広がった。


ハイビジョンとスタンダードのテロップのイメージ



横幅広がって使える一行の文字数が増えたにもかかわらず、
(享年〇)の扱いは変わらなかった。

先般、コミックのテレビ化問題が取り上げられている。
作者へのリスペクトが、重要であるという時は、
リスペクトを込めてテレビでも「享年〇歳」となるとありがたい。


    おわり

*この記事の内容は、主観に基づいています。
実際の技術的な開発の歴史については、各メーカーの沿革などでご確認ください。よろしくお願いします。


#テレビ #テロップ #コミック #リスペクト #享年 #歳 #文字数 #画面 #スタンダード #ハイビジョン #16 :9 #4 :3 #不思議 #謎













ありがとうございます。はげみになります。そしてサポートして頂いたお金は、新作の取材のサポートなどに使わせていただきます。新作をお楽しみにしていてください。よろしくお願いします。