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米津玄師〈Lemon〉J-POPの「失われた10年」を鮮やかに終わらせた1曲。オリコンからビルボードへ、ヒットチャートの変遷

「最近の曲はわからない」と大人のたしなみのように言う人もいるけど、私はいくつになっても、流行りの曲を聴いていたいと思う。

それなのに10数年前、30歳を過ぎたあたりから、流行りのJ-POPについていけなくなった。いいと思える曲が、とても少なくなってしまった。時々いいと思うものがあっても、それが世間で大ヒットすることもない。誰かと「あの曲いいよね」と言い合えることもほとんどなくなった。

そしてある年、オリコン年間トップ10を見て、私は「あぁ終わったな」と思った。

1位 AKB48 - 「僕たちは戦わない」
2位 AKB48 - 「ハロウィン・ナイト」
3位 AKB48 - 「Green Flash」
4位 AKB48 - 「唇にBe My Baby」
5位 SKE48 - 「コケティッシュ渋滞中」
6位 乃木坂46 - 「今、話したい誰かがいる」
7位 乃木坂46 - 「太陽ノック」
8位 乃木坂46 - 「命は美しい」
9位 嵐 - 「青空の下、キミのとなり」
10位 NMB48 - 「Don't look back!」

2015年オリコン年間TOP10

この人たちが嫌いなわけではない。でもこのランキングが、世間の興味と一致したものだとは、とても思えなかった。

翌2016年、RADWIMPS「前前前世」、ピコ太郎「PPAP」、そして星野源「恋」が大きな話題になった年、オリコン年間トップ10はこんな状態だった。

1位 AKB48 -「翼はいらない」
2位 AKB48 -「君はメロディー」
3位 AKB48 -「LOVE TRIP/しあわせを分けなさい」
4位 AKB48 -「ハイテンション」
5位 乃木坂46 -「サヨナラの意味」
6位 乃木坂46 -「裸足でSummer」
7位 嵐 -「I seek/Daylight」
8位 乃木坂46 -「ハルジオンが咲く頃」
9位 嵐 -「復活LOVE」
10位 嵐 -「Power of the Paradise」

2016年オリコン年間TOP10

もうJ-POPのヒットチャートをチェックしても、お気に入りに出会うことはできない。皆で「あの曲いいよね」と言った曲が、ヒットチャートに上ることもない。各々が勝手に好きな曲を探して、各々で聴いて。もうそういう時代なんだな。と思った。

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2018年、風向きを大きく変えたのは、米津玄師さんのこの曲だった。

ドラマのテーマ曲だった「Lemon」は、はじめはドラマのファンに支持され、まもなくラジオやテレビやあらゆるメディアで取り上げられ、ヒットチャートにも上るようになった。その年米津さんは紅白歌合戦に出演し「Lemon」を見事に歌い上げ、人気は最高潮に達した。

でもそれだけでは終わらなかった。その後気鋭の若いミュージシャン達が次々と頭角を現し、ヒットチャートを賑わすようになった。Official髭男dism、King Gnu、あいみょん、YOASOBI、藤井風、Vaundy・・

90年代を思い出すような、突然のJ-POPの活況。いや、CDバブルに浮かれた90年代と比べて、個々の質が抜群に高い、とさえ思う。

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それにしても2015年頃の、シュールなヒットチャートは一体なんだったのか。あれこれ調べていたら、こんな記事に出会った。

J-POPの失われた10年──“ヒット”が見えにくかった2006~2015年
(※記事の一部を要約)
・マスメディアが参考にできるランキングは、かつてはオリコンランキングのみだった
・2006年頃から、ダウンロードなどCD以外の方法でのリリースも出現したが、オリコンはそれを反映せずCD売上に固執した
・結果、CD以外の方法でリリースされたヒット曲を、オリコンランキングは見過ごすようになった
・そのシステム不全を利用する形で、AKBとジャニーズが売上を伸ばした
・機能不全を起こしたオリコンランキングから各メディアが離れ、ようやく実態に近いビルボードランキングが定着しはじめたのが、2015年以降
・そうなるまでに埋もれた曲、アーティストが多数あり、業界のプロでさえもそれらを把握できていない。まさにJ-POPの失われた10年といえる

2021/3/9 Yahoo!ニュース記事より(松谷創一郎氏著、記事の一部をkasumi要約)

なるほど、あの奇妙なランキングは「オリコンの不作為と、それを利用して売上を伸ばした勢力」によるものだった。各メディアがオリコン依存から脱して、活気が戻ってきたのだ。

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「Lemon」の大ヒットと米津さんの圧倒的な実力に刺激を受けるように、数々の才能がヒットチャートに躍り出た・・というストーリーを、いちリスナーの私はふんわり描いていた。
実際は、どうだったのだろうか。

上記の記事で、こんなブログが紹介されている。

音楽チャートの分析サイト「Billion Hits!」。
執筆者あさ氏は、CDと配信を合算した年間チャートがなかった時代のランキングを、個々のデータから分析し、適切な年間楽曲人気チャートを再構築することを試みている、という。

なんとも興味深いが、ボリュームがすごいのでまだチェックできていない。ぜひ後ほど、ゆっくりみてみたいと思う。

ここではこのブログにある、米津さんに関する興味深い記事を引用したい。

「Lemon」は音楽チャートを見ていなくとも体感可能なほどの大ヒットであったため、「Lemon」が好成績をあげた指標は楽曲人気指標としての認知が普及する、という逆転現象が生じた。例えばBillboard JAPAN Hot 100、YouTube、日本レコード協会認定などの指標が知名度を向上させた。

配信ダウンロード売上については、2000年代後半から楽曲人気指標の主役になっていたにもかかわらず、売上の数字がリアルタイムで把握可能な音楽チャートが長らく存在していなかった。2017年12月になり、ようやくCD売上の集計で有名なオリコンがダウンロードチャートを開始したが、ちょうどそのタイミングで「Lemon」の爆発的大ヒットが訪れたため、2018年になってようやく、ダウンロード売上が楽曲人気指標として無視できないという事実が共通認識となった。

この事実が根付くまでの2000年代後半から10年以上の期間は楽曲人気チャートが存在しなかった状態となっていて、多くのヒット曲やヒット予備群が見過ごされ、高ダウンロード売上曲の楽曲人気の過小評価と、高CD売上曲の楽曲人気の過大評価が蔓延した。

この不健全な事態が10年以上続いたことについて業界は大いに反省すべきであるが、何はともあれ「Lemon」の登場で事態は劇的に改善した。

ブログ「Billion Hits!」(あさ氏著)より引用 ※太字マークはkasumi

配信ダウンロードの認知、知名度、信頼性を上げたのが、「Lemon」だった。これでCDに偏った状態が改善し、本当に広く聴かれている曲がチャートに上り、注目されやすい環境が整ったのだ。

やはり米津さんと「Lemon」は、J-POP復活の立役者だった。
その後に続いた髭男の「Pretender」やKing Gnu「白日」など、数々の名曲が広まるための地ならしをした、といってもいい。

それだけの力を持った曲を作ってくれて、本当にありがとう、と思う。

おかげで、とっくに若者でなくなった私も、まだまだJ-POPを聴きつづけられる。10年前よりもずっとたくさん聴いているなんて、なんだか不思議だ。

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