歯医者と私

「歯」とは、痛くなった頃にはとんでもないことになっているものである。

子供の頃から歯磨きが苦手だった。

子供の頃から虫歯がよくできていた。

乳歯の頃は抜歯して終わりだったので、虫歯は抜けばいいとマジで思っていた。

家に帰りたくない病MAXの高校時代に虫歯ができた。

実家の近所の歯医者に通い始めたが、家にいないしバイトで忙しいしで予約をすっぽかし、治療途中で行かなくなった。
痛くなくなったから大丈夫、と思っていた。
そしてそのまま地元を離れた。

地元を離れて3年後の深夜にその時は急に訪れた。

猛烈に歯が痛い。

痛み止めは一切効かなかった。

泣き叫ぶほどの痛みで、今も人生でダントツ第一位の痛みである。
(第二位は足の骨折)

朝の6時まで我慢したが、痛すぎてどうにかなりそうだった。
居ても立っても居られなくなり、行くあてもないのにマンションを出た。
ふらふら歩いていると、歯医者があった。

その歯医者はテナントではなく店舗付き住宅だった。

(ここに住んでるのかな…)

藁にもすがる気持ちで一階のインターホンを押した。

非常識なのはわかっている。
重々承知している。

でも、本当に本当に本当に痛かった。

何回か押したと思う。

インターホンから怪訝そうな声がした。
奥様が応答してくれたのだ。

半泣きで歯がとても痛いことを伝えると、少しお待ち下さい、と言われ、数分後におじさまが出てきた。

奥様が出てくると思っていたのでとても驚いたのをよく覚えている。

おじさまは歯医者さんだった。

診察室に案内され、口内を診てくれ、こう仰った。

「途中でやめずに僕がもう来なくていいよと言うまで通うって約束できる?」

「はい!」

もちろんYESだ。

朝の6時半にインターホンでたたき起こす非常識な私の治療をしてくれた先生。

先生との約束は守ります。

痛みは治療が始まって5分もしないうちに嘘のようにおさまった。

痛みがなくなって、我に返った。

朝の6時半にインターホンでたたき起こす非常識さ。
一晩泣き続けてぐちゃぐちゃなビジュアル。

どう見ても怪しい。
しかも初対面である。
本当によく診てくださった。

治療が終わって、痛みではなく感謝で胸がいっぱいで半泣きになりながら、一生懸命お礼を言った。

先生は
「お礼はいいから、最後までちゃんと通うこと」
と仰った。

神様なのかな。

次回の予約をして帰った。

この歯はかなりの重症で、この歯一本のためだけで10回通った。
他の虫歯も含めて20回は通ったと思う。

「次で最後だよ。歯ブラシを持ってきてね。」
と言われた。

約束した最後の時がやってきたのだ。

先生は優しい目で
「歯磨きが下手くそすぎるんだよなぁ」
と言い、歯磨き指導をしてくれた。

あれから23年。
治療してもらった歯のおかげで、楽しい食生活を送ってきた。

その後引っ越したのでその歯医者さんには通わなくなったが、歯の定期検診は欠かさないし、歯磨きも教えてもらったやり方でやっている。

それでも時々虫歯ができるが、痛くなる前に治療して事なきを得ている。

このコンテストに応募するにあたり歯のことを書いたのは、現在、23年の時を経て再度、その歯の治療をしているからである。

23年前と同様にかなりの難敵で、さらに時を経て石灰化しているため、既に6回通っているが終わりがみえない。

終わりがみえなくても最後まで通う。

そう、あの時診てくれた先生との約束だから。

みなさん、歯を大切に。








#わたしの習慣

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