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リスキリングと錆びた包丁

「リスキリング」は最近の流行言葉のように感じます。少し前は「リカレント」が流行っていました。英語の意味を厳密にたどれば違いはあるはずですが、日本のでは、ざっくり言ってしまえば
「社会人が新たなスキルを学ぶこと」
という意味になっているようです。

普段、目先の仕事の忙しさに紛れて、新しい知識やスキルを学ぶことをしなくなる傾向があります。逆に、資格試験の勉強をすると仕事をさぼっていると受け取られる傾向すらあります。

以前は「OJT」で新しいスキルを身につけるのが当たり前でした。僕が社会人になりたての頃はそうした雰囲気が充満していて、特に製造業の現場では、現場で積み上げた感覚がなにより大事、机上の勉強など役に立たないと教えられていました。(僕は)

現場でしか覚えられないことがある、というのはいまでも変わらないと思います。AIがどんなに進化しようが、人間の「感覚」を超えるのは難しいでしょう。少なくとも僕が生きているうちにそんなことになりはしない、と思います。

しかし、そうして身につけたことの多くが、その場所でした使えないスキルになってしまいがちだと気づく必要があると考えています。
経理という、ポータブルスキルのように思われる分野ですら、その会社の独自ルールがはびこっていて「それは他の会社では通用しないよ」と思うことが多々ありました。

会社独自のルールがあり、そのルールが変わらないとすれば、いままで通りにやっていくのが一番理にかなっています。リスキリングなんてやるだけ無駄と考えて不思議はない。

ところが、会社は変わらなくても社会は変わります。経理の例を取れば、法律も変わりますし、会計処理もソフトが導入されてきました。インボイス制度が始まり、電子帳票保存法も改正されました。昔ながらのやり方、電卓を叩き、紙の伝票で処理するのは無理な時代になってきています。そのための会計ソフトも多数、出てきています。

これらに対応するためには、当たり前ですが新しいスキルが必要になります。その会計ソフトも、オンプレからクラウドに変わりつつあります。それに対応しないといけないはずです。

いままで使ってきたわけですから、当面はオンプレのソフトの方が使いやすいでしょう。使い慣れていないからクラウド会計ソフトがやりにくいと思うのも当然ではあります。
しかし、最終的に電子帳簿保存法に対応したり、インボイス制度に対処したりするためには、従来の仕組みでは無理をきたします。今のうちから、というには少々遅いのですが、気がついたときから早めに準備をするに越したことはないはずです。

要するに、錆びた包丁で「大変だ、大変だ」と言いながら魚をさばいていている人が多いと感じるのです。新しい包丁に変えた方がいいよ、少なくともその包丁は研いだ方がいい、とアドバイスをするのですが、
「優先順位が違います。いまは目の前の魚をさばくことが優先です。」
となってしまいがちです。
ところが時間をかけて捌き終わったころには、次の魚がやってきて、いつまで経っても代わりの包丁を手に入れる努力はしない、研ぎもしない、となっています。

例えば、Excelで処理していることがあったとします。いまやExcelを使わずとも処理ができ、その先の工程とも連携できるソフトが出てきています。というとこまでが難しいとしても、Excelの勉強をし直すくらいのことはできるでしょ、と思うのです。

四則計算の関数しか使わずに表を組んでいる人をいまだに見かけます。なんでこんな表を? と言えば前任者から受け継いだからという話になるのですが、だったら自分で少し改変したら良い。でもExcelの知識がないから怖くてできない、ということのようです。

リスキリングの小さな一歩はこうしたことから始まるのではないかと思っています。つまり、目の前の不便さをどう解消すれば良いか。それを考え、そのために何を学べば良いか、がスタートだと思います。

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と思いつつ、新しい包丁を探さないのは、研ごうとすらしないのは「私はこんなに一生懸命にやっているのに評価されない」と思いたいからなのではないか、自分の中で「私は頑張っている」という充実感を味わいたいのではないか、と思われる節もあります。そうなると違うアプローチが必要になりますね。

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