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価値観(Values)

最近、面談でバリューカードというものをよく使います。そのカードには、一枚一枚のカードに「協調性」「他者への影響力」「個性の発揮」など価値観を表す言葉が書いてあり、そのカードの中から自分にとって重要度が高いものを2枚選んで、「なぜそれを選んだか」「カードの言葉にまつわる経験」など話してもらいます。自分の価値観について話すとき、結構楽しそうに話す人が多いように思います。自分の価値観にハマることは、その人の「好きなこと」に繋がっていること多いのでしょう。

話は変わりますが、先日、ある若者の就職が決まりました。彼は今年の春に東京の大学院を卒業後、実家に帰ってから就職活動を始めました。在学中に就活しなかったのは修士論文に集中したかったから。大学院の研究・論文には悔いはないと言い切っている彼。教授の厳しい指導にも耐えて学生の本分を全うしたことに対して、私は素直に感心しています。

しかし、日本の多くの企業の「価値観」は違います。在学中に就職が決まらなければ、「就職に失敗した人」なのです。ほぼ100%の面接官に「在学中に就職を決めなかった理由」を聞かれます。そのあたりは私でも聞くと思うのでここまでは良しとして、問題は理由を聞いた後の反応です。「結局は就職できない人」「そもそも大学院に行く人って学部生の時に就職できなかったからでしょ」「大学院に行く人って変わり者」など大半がネガティブな反応でした。そして彼は「大学院」で研究に打ち込んだ自分を否定的に見てしまうようになりました。

正直なところ企業で採用を担当している私自身も、いわゆる「既卒生」に対してはネガティブな先入観がなかったとは言えません。就職が在学中に決めておくのが「普通の人」という「価値観」で、そうでない人を「ほかの人と違う」と色眼鏡で見てしまうのは、今の日本の制度にどっぷり漬かってしまった身では、ある意味「普通」の反応かもしれません。

就活がうまくいかない状態が続いた彼は、希望業種や職種も、大学職員、SE、出版関係など変遷していき最終的には経理関係の職種にたどり着きました。もともと大学の専攻は文学系なので、SEや経理は畑違いの職種といえますが、彼の中で一貫していた価値観は「人の役に立つ」「誰かを支える」というものでした。バリューカードでは「他者への影響力」のカードを選んでます。大学職員を希望したのは研究者と学生を支えたい、SEは企業や社会の役に立つシステムに携わりたい、そして出版は研究者が読む専門書店で、やはり研究者の役に立ちたいという思いでした。最終的に経理・会計の世界を選んだのは、ハローワークの相談員の勧めで就活のために勉強をはじめた簿記に興味を持ったことと、このまま勉強を続け上級資格を取れば、その結果が仕事にもつながり世の中の役に立つと考えたからです。

彼は最終的にある会計事務所に就職が決まりました。その事務所の所長は彼の経歴を肯定的に捉えてくれました。彼の中に誠実さを認めました。就活が「普通の人」と違うということは一切気にしていませんでした。勉強し続けることの大切さを知り、彼の「勉強し続けたこと」を評価し、価値を認めました。

人間関係、職業生活を有意義にするためには「お互いの価値観を肯定的に受け止める」ことが大切だと思います。「価値観」は人によって違います。バリューカードで同じ価値観のカードを選んでもそれにまつわる背景、経験は人それぞれです。そして経験に対する「意味付け」もひとそれぞれです。それでも、その違いを受け止め共感できる人となら、人は同じ方向に進めるのではないかと思います。

バリューカードを見ながら今年の夏のインターンシップを振り返り、そんなことを考える年の瀬です。

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