見出し画像

[エッセイ] 趣味を楽しむ中高年  自作して飛ばす模型飛行機


写真 Old Warden ModelAirより


おやじ達が集まって、ゴム動力飛行機を飛ばしている動画があり、
見ていてほっこり心がなごむ。
同様の動画はいくつかあり、アメリカなどでは、ひとつの趣味の世界として定着しているようだ。
若者もいないことはないが、ほぼ中高年の男性で、腹の出たおっさん、髪の白い老人がメインである。
現代ではRC(ラジコン)が普及し、模型エンジンや電動モーターを使った模型飛行機が主流のようになっているが、彼らは昔懐かしいゴム動力機を楽しんでいる。
よく見ると、自作手作りの機体も多いようだ。
タイプとしては高翼のセスナ型が多いが、昔の複葉機も登場する。
セスナ型は軽飛行機として、よく知られており、皆に愛される形である。
ほほえましいのは、どれもスタイリッシュというよりは、ずんぐりむっくりだったり、ちょっとデザインのくずれた愛嬌のある形をしていたりする。
また、カラーも洗練というよりは、子供っぽかったり、素人くさく、それがまた親しみを感じさせる。
ゴム動力なので、たいていはぐるぐる何回か周回して着陸だが、なかには高くまで上がり、林の向こうに消えてしまったり、木に引っかかってしまうものもあり、笑いとため息をさそう。
滞空時間や飛行距離を競うといったことはあまりしていないようで、皆好き好きに飛ばしているのがいい感じである。
この趣味は、紙と少々の木片、ゴム紐があれば作れてしまうので、ほとんどおかねがかからない。
自分でコツコツ作った機体を大切そうに車から取り出すのを見ていると心が安らぎ、少々くたびれかけてきたおやじ達が、素朴な手作りおもちゃで無心に遊んでいる風景がなんともいえない。
梁塵秘抄でも ──遊びをせんとや生まれけむ── といっている。
人生は一場の夢、好きなことをちょっと楽しまないでどうしよう。
 
以上は屋外で飛ばす話だったが、屋内でも飛ばしている。
体育館のような広い空間で飛ばす室内機である。
限られた空間内で飛ばすので、大きさも小さい。
やはりみな、好き勝手にとばしているのが楽しそうだが、たいていは何回か周回してストンと着陸する。
なかによく飛ぶのがあって、どんどん上昇し、天井の梁にひっかかったりする。
その時は、天井まで届くおそろしく長く伸びる釣竿のようなもので、引っかかった機体をはずしている。
室内機でも、超軽量機というのがあって、わずか数グラムという軽さである。普通の紙では重たいので、シャボンの泡のような透明な特殊フィルムで作られる。
こればっかしは誰でも手軽に作れる、というわけにはいかない。
この機体はきわめて低速で、まるで水族館のクラゲのように、ふわふわただようように飛ぶ。
この飛び方が絶品で、神秘的なおもむきがあり、目が吸い寄せられてしまう。風は禁物で、運ぶときも飛ばすときも、そっと息をとめるようにしてあつかっている。
さもないとこわれてしまうからである。
 
日本ではよく、定年後、趣味もなく、どう過ごしたらよいかわからない、なんて話を聞く。
しかし模型好きという趣味は、一生変わらないようである。
私も子供のころから模型工作が大好きだった。
当時、模型屋で細長い紙袋に入った模型飛行機の組立キットを買って帰るのが一番の楽しみだった。
老いた今も全く変わらない。遠くで誰かが模型をやっているのを見つけたら、おもわず駆け出してしまう。
趣味は、真似するものでも探すものでもなく、思い出すものだと思う。
子供のころ好きだったこと、夢中になったもの、楽しかったもの、だれでも必ずなにかあるはずである。
たぶんそれは、大人になった今でも変わらないはずなのだ。
趣味を楽しむには、ひとめを気にしないことである。
なにかばかにされそう、なんて思っていたら楽しめない。
カッコつけるのをやめると、自分だけの自由で、時を忘れた世界が広がるのだ。
 
私は現在ラジコンのヨットを近くの池に浮かべて楽しんでいる。
飛行機も好きなのだが、あいにく近くに飛ばせるような広場がないのでヨットになった。
このヨット、全長30cmもない超ミニヨットである。
もちろんすべて自作した。
CADでデザイン、設計し、排水量を計算し、工法、素材を考える。これらすべて、作る楽しさである。
できあがったらもちろん帆走し動かすのは楽しい。
たいていの大人や子供はあまり関心がなさそうだが、たまに話しかけてくる人もいる。
「それ、モーターで動いているんですか?」
「いや、風だけで動いているんですよ」
「ほう! よく倒れないもんですね」
なんて会話をする。
近くのパン屋の黄色いビニール袋から作った帆や、プラ板接着の船体は、時々メンテナンスをおこなう。これもまた趣味の楽しさの一部である。
天気の良い日、段ボール箱に入れたヨットをバッグに入れ、自転車で近くの公園の池に行くのが、もっかの私の趣味となっている。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?