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わたしの好きな詩 ──心に静かに染み渡ります [第21回]


日没五分前

ウラカス島沖から
ヴァレンタン海峡を指して
わが練習船は航海した
マグネシュウムのように炎える洋上を
毎日 決まった風速の東南貿易風が吹き
おなじ高さの長濤が立った
船一艘も陸の片影も見ず
三十日間
おれ達はまるで青一色のカレンダアを
めくって捨てるような気持がした
朝 太陽は船尾から昇って
夕暮に舳の水平線にいた
すると 風下当番の若者が大声で怒鳴って
おれの船室の前を走りぬけてゆく
──日没五分前
──日没五分前
ウインドスルが畳まれる
舷窓や艙口が閉ざされる
電燈が点って
船にたのしい夜がくる

丸山 薫


*炎える=もえる
長濤=うねり
舳=へさき、「とも」ともいう、船の前端部
風下当番=かざしもとうばん
日没=サンセット
ウインドスルが畳まれる=帆がたたまれる
舷窓=スカッスル=船の側面の丸い窓
艙口=ハッチ=甲板に出入りするための蓋
閉ざされる=とざされる
電燈が点って=電燈がともって

風だけを動力に航行する帆船は、今では考えられないほど、
日時をかけて航海したのですね。
しかし何か逆に、ある種の豊かさ、楽しさを感じます。
効率よく急ぐことによって、失うものもあるかもしれません。

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