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[エッセイ] 樹が好き ──樹は生きた彫刻・樹の造形を楽しむ


いちじくの木 礒部晴樹・画



樹をながめるのが好きである。
幹、枝ぶりの造形のおもしろさに惹かれる。
盆栽をやる人なら、樹形について明確な審美眼をもっているが、
私は、樹を生きた彫刻として楽しんでいる。
公園などで、大きなレンズを付けたカメラで、カワセミなどきれいな小鳥を狙ったり、美しい花を写している人はよく見かけるが、じっくり樹を撮影している場面には出会ったことがない。
小鳥は逃げるし、花は時期があるが、樹は逃げないし、いつでも見られるから逆に興味をそそられないのか・・・
 
平凡ではあるが、まずモミジが美しい。
この樹はそんなには大樹とならないが、ある大きさになると、枝ぶりに味がでてくる。
盆栽でいう曲がつく(曲がっている)ということである。
日本庭園の水辺の周りには、必ずモミジがあり、趣のある風情をみせている。
松などのように、庭師が縄かけしたり特別手をかけなくても、自然に美しい枝ぶりになるようだ。
これから芽だし、新緑の季節、モミジの美しい季節である。
 
桂の樹も水辺が好きだが、モミジとちがって枝ぶりなんて芸はない。
育ちの良い家系なのか、まっすぐ伸びていく。
どの枝も脇にくねくね曲がらず、とにかく皆垂直に上をめざしていく。
この上下にすっきりと伸びた樹形が気持ちよく、かなりの高木となる。
まっすぐな枝に、丸っこいハート型の葉がかわいい。
 
椿も冬のこの時期、よく見かける樹である。
椿の花は、種類が豊富で、色や形もさまざまあるが、私はごく普通の赤い一重の花が好きだ。
椿の幹は白い。
周囲を光沢のある濃い緑の葉が覆い、その中に赤い花がびっしり顔を出す。
この白、緑、赤の取り合わせのすばらしさ、このカラーコーディネートをした、どこかにいる自然界のデザイナーに感服してしまう。
 
楠(くすのき)は公園のエントランスや神社の境内などで見かける常緑の樹である。
とても大きくなる樹で、どっしりと枝ぶりもよく、光沢のある厚い葉をつけ、シンボルツリーとなっているものも多い。
秋、丸い実(種)が、葉にくっついて落ちている。
この種をまいて盆栽をつくろうと思ったが、芽のでるのが翌々年になるなんてこともあるらしく、試みたことがない。
 
公園といえばミモザの苗を、子供のころ、公園の周囲に植えたことがあった。
学校からミモザの苗をみんなで貰って、植えにいくイベントがあったのである。
もう60年以上昔の話である。
そのミモザは、今ではタワーマンションではないが、垂直にまっすぐ、高層建築のように高くそびえて、となりのゴルフ場との境界壁となっている。
 
この時期、散歩していて、農家の庭先などで、木蓮やコブシの樹を見かける。
まるで巨大な丸い球のように、大きな白い花をびっしりつけているので、遠くからでも目立つ。
木蓮は赤い花もある。
スポーツカーのイタリアンレッドのようなあざやかな赤ではなく、しっとりとくすんだ赤紫色が和風でしとやかだ。
しばし足を止めて見入ってしまう。
木蓮の親分のような泰山木などみつけたらたいへんである。
木蓮の花を何倍か拡大したような白い花、葉も大きく、この樹の下に行くと、自分が小人になったような気になる。
 
生の樹ではなく木材の話になるが、、米松(べいまつ・米国産の松)という樹には、昔いろいろお世話になった。
パイン材といって、すこし黄色味がかった木材で、はっきりとした木目とぽつぽつ節のある丈夫な木材である。
私は若い頃日曜大工に熱中していた時期があり、この材料で、イス、机など作った。
昔、北欧の家具が日本に入ってきた時期があり、パイン材でつくった家具が多く、北欧のパイン材は青白い肌で、美しい木目と節が、素朴な雰囲気をかもし、たいへん魅力的だった。
この影響でパイン材を知り、真似して家具など作ったのである。
 
またまた話は横にそれてしまうが、レバノン杉という樹がある。
昔、大航海時代、大型の帆船がたくさん建造されたが、当時まだ木造船時代で、この船の材料としてレバノン杉という樹が使われたのであった。
絵などで見ると、ものすごい巨大な樹で、さすが大型船の材料になっただけあると思った。
この樹は現在、当時の乱獲のため絶滅したようである。
一時期の需要のため、植物の種が滅びてしまうのは悲しいことである。
確認していないが、レバノンの国旗にこのレバノン杉が描かれているとかいないとか、このような形で残っているようである。
 
乱獲ではないが、家の近くの公園の楠が剪定されていた。
公園入口のかなり大きな樹が数本、太い枝先が切断されている。
しかしよく見ると、切り口の近くに一本細い枝がちょろりと残されている。
この細い枝が大切で、春、芽吹くとき、ここを起点にしてまた繁茂していくのである。
植物と人間、はるか昔、地球に生物が誕生して以来、長い付き合いである。
緑の中で、花の香りのなかで、楽しく生きていきたいものだ。
 
 

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