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論戦は受け切って最後のパンチで決めるといい話

こんにちは。弁護士の紙尾浩道です。

今日は、論戦は受け切って最後のパンチで決めるといい話をします。

弁護士業務の中では、相手方にも代理人弁護士が就いて交渉となることがよくあります。

ダダダダーっと、まくし立てて、最後に眼鏡をクイッとやる

なんかすごく強い弁護士さんで頼りになりそうですよね?

でも・・・

実は、この弁護士さんの方が負けてしまうことが往々にしてあるんです。

ちょっと具体的にイメージしてもらうために、契約の事件で交渉している感じを出してみましょう。

もちろん、全編フィクションですよ!

【悪い例】
相手方「契約書の15条によれば、△商事さんの方が、検査を行い、速やかに通知する義務を負っています。」

こちら「当該義務については、あくまでサンプル検査で済むと担当者間で合意されていたので、通知義務は果たしています。」

相手方「いえ、⬜︎製作所には、なんら検査後の通知はいただいてません。」

こちら「今一度、⬜︎製作所の担当者にご確認いただいた方がいいと思いますよ。」

相手方「仮にそのような合意があって、検査・通知もされていたのであれば、なぜ代金を払っていただけないのですか?」

こちら「製品に不具合が見つかったからです。」

相手方「全製品にですか?」

こちら「・・・今のところ確認できているのは、1割程度と聞いていますが、詳しくは確認してみます。」

相手方「仮に先生の言うとおりだとしても、残数の9割については、受領していただかないといけないですし、代金を支払ってください。こちらも、仮に1割に不具合が出てるようであれば交換させるなど考えさせますので。」

こちら「・・・いずれにしても確認してまたご連絡します。」

分かりますか?

この例では、相手の手の内を全て聞きとる前に、1番最初の一手目に反論してしまいました。

これでは、相手がどこまでの事実を把握して、どこまでの証拠があるか何も分かりません。

しかも、反論したポイントが結論に直結しない可能性があります。

一見、一手目からバシッと反論してカッコよさげですが、最終的には尻すぼみになってしまいました。

【良い例】
相手方「契約書の15条によれば、△商事さんの方が、検査を行い、速やかに通知する義務を負っています。」

こちら「・・・(なるほど、全製品が全く不具合なしとまでは言えないようだなぁ)」

相手方「しかし、⬜︎製作所には、なんら検査後の通知はいただいてません。」

こちら「・・・そうでしたか?事実関係は会社に確認してみますが。それでどのような結論になりますか?」

相手方「⬜︎製作所の製作所の歯車にはなんの問題もないはずですし、今までの代金全額を支払っていただいて、来月の納品分も引き取ってもらう義務があります。」
こちら「そうですか。先生、実はですね、⬜︎製作所から今月納品いただいた歯車100個のうち、10個のみ検査したところ、全て不具合が出たんですよ。」

こちら「なので△商事としては、今後の製品引き取りはできかね、今月分の代金も支払えないとの意向です。」

こちら「ついでに、過去の製品についても全品検査しなければならないと考えており、その分の損害賠償もお願いしなくてはならない可能性があります。一度、会社と対応をご協議いただけませんか?」

相手方「・・・一度会社と話してご連絡します。」

分かりますか?

相手方の一言目は、黙って聞きながら、相手の手の内を想像します。

まず相手の請求全体を聞き切ってしまい、その結果、製品の検査通知があったかのフィールドで闘うよりも、全体的にみて、この事案は要するに不具合があることは事実として、代金とその後の対応費用をどう公平に分担するべきかが焦点だと見定めて、そちらに舵を切っています。

さて、ちょっと難しい話になってしまいました。

日常に戻ってみますね。

例えば、仕事でクレームが来た時も同じです。

謝りながら、とにかく相手の話が結論に落ち着くまで、全て話してもらいます。

とにかく受け切って、相手の手札と温度感を想像するんです。

一の矢に対して、すぐに打ち返すと、それを踏まえた二の矢が飛んできて、また打ち返してと、球の数が多い方が勝ちですが。

三本くらい受け切って、相手に弾切れさせてから、1番結論に近い反論の矢のみを、一発グサっと打ち込む。

なので、相手に全部喋ってもらうまで、言いたいことをグッと我慢して、黙ってる人が最強です。

ベテランの先生と対峙するときや、裁判所でやり取りするときは、めちゃくちゃ気を使ってます。

特にカミオは、喋りたがりなので、すぐリアクションできてしまうんですが

涼しい顔で、黙っている技術

これこそ、論戦をするときの最強スタンスだと思います。

以上、論戦は受け切って最後のパンチで決めるといい話でした。

では、また。


記事をお読みいただきありがとうございます。弁護士は縁遠い存在と思われないよう、今後も地道に活動をしようと思いますので、ご支援よろしくお願いします。