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畠山さんに教わった「石原慎太郎、42歳の挑戦」。

選挙専門サイト「選挙ドットコム」が運営するYouTube番組『選挙ドットコムちゃんねる』でMCを務めて2年半になる。多士済々のコメンテーター陣が「選挙」「政治」について小気味のよい解説をしてくださることが最大の魅力で、私も2年半、とても勉強させていただいている。

そのコメンテーター陣のひとりに畠山理仁さんがいる。とにかく候補者に対するリスペクトを欠かさないフリージャーナリストで、世間からは“泡沫候補”と呼ばれる人々のことも、“無頼系候補”と呼び替えて心からリスペクトしている(畠山さんの代表作『黙殺』は名著なので、ぜひとも読んでもらいたい)。

今年2月に石原慎太郎さんが亡くなったタイミングでのゲストが、ちょうど畠山さんだった。当日、畠山さんが一冊の文庫本をご持参くださった。それは『馬車は走る』という沢木耕太郎さんのノンフィクション集で、そのなかの一編が、石原慎太郎さんが42歳のときに初めて挑戦した都知事選挙に密着したドキュメントだった。

乙「その本、めちゃくちゃ面白そうですね」
畠「いやあ、乙武さん。これは本当にいいですよ。よかったらお貸ししましょうか?」
乙「え、いいんですか?」
畠「どうぞ、どうぞ。次回の収録までお持ちいただいて大丈夫ですから」

というわけで、畠山さんからお借りした本をむさぼるように読み耽った。もともと私は大学を卒業後にスポーツライターとなり、その際に最も憧れ、その文体の真似もした大先輩が沢木耕太郎さんだったから、それだけで掛け値なしに読む価値がある。その上、この2年半で「選挙」についても学ばせていただいているのだから、私にとって面白くないわけがない。

序盤からさすがの筆致でぐいぐいと読書を惹きつける。このノンフィクションの“対象”である石原慎太郎との距離感も、近すぎもせず、遠すぎもせず、むしろその周縁の人物を描いていくことで石原慎太郎像を浮かび上がらせていく手法には、あらためて唸らされた。

終盤まで一切と言っていいほど、筆者の思いは盛り込まない。事実を、コメントを、ただひたすらに並べていく。同時に、選挙戦が進んでいく。“革新都政”をスローガンに掲げ、絶大なる人気を誇る美濃部亮吉との大激戦。結果は当日までわからない。いよいよ開票。石原の挑戦は、惜しくも勝利には届かなかった。

そこで、沢木耕太郎は初めて「自分の思い」を吐露するのだ。

「石原慎太郎は、最後まで石原慎太郎だった。だから負けたのだ」と。

沢木が見てきた石原は、たしかに魅力的だった。若き挑戦者としてのをプンプンと発しながら、みずからの野望も自信も隠そうとしない。そんな傍若無人な振る舞いに、多くの人がエネルギーを感じ、「何かを変えてくれるのではないか」と期待感を抱いた。

同時に、石原は不潔な人、無能な人に対してはあからさまに拒否反応を示し、自分から遠ざけた。そして、そんな態度も選挙中にもかかわらず隠そうとはしなかった。それが、沢木が「石原慎太郎は最後まで石原慎太郎だった」と書いた所以だろう。

この感想は、40日間もの長きにわたって密着してきた沢木にしか書けないことだ。しかし、と同時に私は思った。

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「乙武洋匡の七転び八起き」
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