3階建てなのに階段が存在しない図書館に胸が熱くなった話。
先日、福井県「小浜法人会」のみなさんにご招待いただき、乙武洋匡講演会を開催していただきました。これまでに47都道府県を制覇した私でしたが、福井県を訪れた機会はそれほど多くなかったこともあり、今回は一泊してゆっくり福井を堪能することにしました。
福井県の中央には木ノ芽峠という峠があり、そこより北の地域を嶺北(れいほく)、南の地域を嶺南(れいなん)と呼ぶのだとか。今回は小浜市に呼んでいただいたこともあり、嶺南地方をご案内いただくことにしました。
ウーマンラッシュアワー村本大輔さんの地元・おおい町で村本さんの弟とばったり遭遇したり、45メートルにも及ぶ地層が展示されている福井県年縞博物館で7万年という年月に思いを馳せたり、魚がウマい店で刺身定食と若狭ぐじ定食のどちらにするか頭を悩ませたりと思い出は尽きないのですが、最も印象に残っているのは若州一滴文庫でした。
若州一滴文庫のあるおおい町は、原発がやってくるまで町の財政が非常に厳しく、ついには図書館まで運営できなくなるほどの窮状だったと言います。「子どもたちが本を読めなくなるなんて」と困り果てた町の人々は、おおい町出身であり、当時の人気作家だった水上勉に相談に行きました。すると、「故郷がそんなことになっていたなんて……何とか力になりたい」と水上氏は私財を投じて図書館を建てました。それが若州一滴文庫の始まりです。
学芸員の方からそんな説明を受けつつ、館内を進んでいきます。このとき、「おっ」と思ったのが、正面玄関に設置されたスロープ。日本家屋は車椅子とすこぶる相性が悪く、せっかく観光名所に行っても十分に楽しめないことが多いので、こうした配慮は車椅子ユーザーとして非常にうれしいものなのです。
館内には、2万冊を超える水上勉の蔵書や彼が愛したアーティストの作品、そして作品ごとに書かれた水上氏による解説が並んでいました。スロープで2階に上がると、同じおおい町出身の画家・渡辺淳(すなお)さんと、映画『吉原炎上』の原作としても知られる斎藤真一さんの作品が展示されています。個人的には斎藤さんの画風がすごく好みで、車椅子の上からしばらく見惚れてしまいました。
「さあ、3階に行ってみましょう」
そう学芸員の方に促され、スロープでさらに上の階へ。ここで、学芸員からこんな質問を受けました。
「乙武さん、ここまで館内を回ってみて、なんだか違和感がありませんか?」
不意を突く質問に思わずフリーズしてしまった私ですが、少し考えてみると“あること”に気がつきました。
——階段が……ない?
「そうなんです。この若州一滴文庫は3階建てなのですが、じつは階段がないんです」
——ですよね。どうしてなんですか?
「はい、それには理由がありまして……」
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