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「萌え絵」と「障がい」と表現の自由。

以前にこんな記事を書いた。

詳しくは記事を読んでいただきたいのだが、簡潔にまとめると、「障害者の一部が『障害の“害”の字が障害者が社会において害悪となっているという印象を与えているので、“障がい”と表記してほしい』と要望した結果、マスコミや公的機関は“障がい”と表記するようになったが、じつは障害当事者にアンケート(1261名回答)を取ったところ、“障がい”表記は望まれていないどころか、むしろ忌避されている」という内容だ。

私自身、日頃から多様性の大切さを主張していることもあり、「少数派の意見だから無視してもかまわない」などとは毛頭考えていない。しかし、「わずかな人が“不快だ”と声をあげれば、その表現は恒久的に使用してはならない」となれば、世の中からすべての表現が消え去ってしまうことになるのではないだろうかと危惧もしている。

たとえば失恋したばかりの人は恋愛ドラマなど見たくもないだろうし、子どもを亡くしたばかりの人がホームドラマなど見たら悲しみのどん底に追いやられるだろう。かつて、森三中・大島美幸さんの出産シーンが放映されたときには、「産めない人の気持ちを考えろ」とクレームが入った。それこそ、私の容貌を見て“不快だ”と感じる方がいれば、私は二度とメディアに出ることができなくなる。

こうしたことから、私自身は一部の人が“不快だ”と声をあげたからと言って、ただちにその表現を使用禁止とすることには慎重であるべきだと考えている。とは言え、そうした方々の“不快だ”という感情をまったく無視していいのかと言えば決してそんなことはなく、可能なかぎり配慮していくことが望ましいとも言えるだろう。

私も、そしてマスコミも、表現に携わる者はすべからく、この両者を天秤にかけながら、考えを行ったり来たりさせ、悩み、苦しみながら着地点を見出していく、という作業をしていくべきなのだと思う。少なくとも、私も一人の書き手として、表現者として、つねにこうした悩みを抱えながら、文章を書くようにしている。

もちろん、それでも私の表現で傷つく人がいないわけでないことは理解している。無自覚に誰かを傷つけてしまうこともあれば、誰かが不快な思いをすることが想定されても、「それでも伝えるべきことだ」と覚悟を決めて書いているときもある。いずれにせよ、“表現”とはそれだけの責任が伴うものであるという自覚だけは持っておきたいと、そう肝に銘じている。

そんななか、今週気になったのは、この話題だった。

立憲民主党の前衆議院議員・尾辻かな子さんによるTwitterの投稿だ。

JR大阪駅の御堂筋口に掲示された広告が「女性の性的なイラスト」であり、非常に不快だというご指摘だった。私も詳しくないのでよくわかないが、世間ではこのようなイラストを“萌え絵”と表現するようだ。ここまで書いたことを踏まえて、この大阪駅の“萌え絵”広告と尾辻さんのご指摘を、「表現の自由」という観点からはどのように捉えたらいいのだろうか。

今回の尾辻さんのツイートに限らず、ここ数年、この“萌え絵批判”はわりと頻繁に目にするようになった。たとえば2019年には、日本赤十字社が献血のキャンペーンとして、人気漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』のメインキャラクターである宇崎ちゃんのイラストを使用したところ、「過剰に性的である」「環境型セクハラ」との批判が沸き起こった。宇崎ちゃんの胸が過度に強調されている、というのがその主な理由だった。

また、昨年には千葉県警が松戸市のご当地Vtuber「戸定梨香」を交通ルール啓発動画に起用したが、全国フェミニスト議員連盟は「公共機関である警察署が、女児を性的対象とするアニメキャラクターを採用することは絶対にあってはならない」「性犯罪誘発の懸念すら感じさせる」などと抗議し、動画の削除を求めた。

こうした抗議に対して、擁護の声も上がっていた。なかでも個人的に考えさせられたのは、「胸が強調されていることや肌の露出が多いキャラクターの起用を“性搾取だ”と批判してしまうと、現実にみずからの意思でそうした格好をしている女性は、性的に消費されても仕方ないと受け止められてしまうのではないか」という声だった。

いずれにせよ、“萌え絵”を不快だと感じる人もいれば、何とも思わない人もいる、さらには自分が愛好するものを否定されたような気持ちになる人もいる、という状況のなかで、どこに着地点を見出すべきかは非常に悩ましい問題だと思う。

この議論のポイントは、

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「乙武洋匡の七転び八起き」
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