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ついにタイムカプセルを開ける日がやってきた。

いまから10年前、私は杉並区立杉並第四小学校で教師を務めていた。4年2組の担任として、23人の子どもたちと日々を過ごしていた。保護者のみなさんも含めて彼らと過ごした日々は、私の人生のなかでも、ひときわかけがえのない時間で、いま振り返っても涙がこぼれそうになる。

2010年3月、私と子どもたちたちは別れのときが迫りつつあるなか、「タイムカプセルをつくろう」という計画を立てていた。十年後、みんなが二十歳を迎えたときに集まって、タイムカプセルを開けようという計画だった。まずは、みんなで中身を相談した。

合唱をした。子どもたちから、夏川りみさんの『涙そうそう』がいいという声が上がり、曲が決まった。音楽室を借りて、音楽の先生がピアノを弾いてくれた。私も歌おうかと思ったが、私のデカイ声が子どもたちの歌声に混じってしまっては十年後に私が後悔してしまいそうだと思い直し、大きく口を開けて歌う彼ら一人ひとりの顔を見つめていた。それだけで涙があふれてきた。

「十年後の私へ」というテーマで自分への手紙を書いた。さて、この手紙、私も書いたのだろうか。書いたとしても、どんなことを書いたのだろうか。すっかり記憶にない。記憶力には多少の自信があると自負していたはずのに、どうしたことだろう。これが十年という歳月なのだと自分に言い聞かせつつ、「年のせいだよ」という心の奥から聞こえてくる声に無視を決め込んでいる。

あと、もうひとつ入れたはずなのだが、これも思い出せない。たしか、習字だったはずだ。自分の好きな言葉を思い思いにしたため、それをカプセルに入れることにした、ような気がする。記憶とは十年でここまで劣化するものなのか。政治家がよく言う「記憶にございません」に、これからはほんのちょっぴり寄り添ってあげようかなと思うほどだ。

さて、ここで約束を振り返る。

「十年後、みんなが二十歳を迎えたときタイムカプセルを開けよう」

そして今年1月、マサキから連絡が来た。

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「乙武洋匡の七転び八起き」
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