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2023年にもなって、なぜ「初」なのか、みんなに考えてもらいたい。

私は特に文芸ファンというわけでもないこともあり、恥ずかしながら前回の芥川受賞者がどなたなのか、そのお名前を把握していない。前回どころか、きちんと記憶にあるなかで言えば、受賞作『火花』が話題になった又吉直樹さんが最後になるのかもしれない。

そんな私でも、今回の受賞者の名前がしっかりと記憶に刻まれることは間違いない。

市川沙央(いちかわ・さおう)

まだ受賞作の『ハンチバック』を読めてさえいないのに、なぜ彼女の名前が深く刻まれたのかと言えば、それは『ハンチバック』が重度の障害がある主人公を描いた作品であり、作者の市川さんもまた先天性ミオパチーという難病を患う重度障害者だからである。

いや、正直に言えば、それだけではまだ私の「記憶に刻まれる」までには至らなかったかもしれない。メディアが配信する記事のなかの彼女の顔を凝視し、そのメッセージに目を止めることになったのは、受賞にあたっての記者会見がきっかけだった。

特に、この問いかけは鮮烈だった。

「芥川賞にも重度障害者というのは受賞者も作品もあまりなかった。初だと書かれるんでしょうが、どうしてそれが2023年にもなって初めてなのか。それをみんなに考えてもらいたいと思っております」

この言葉は、記事の見出しにもなり、SNSを駆け巡り、さまざまな人がさまざまな答えを並べていた。それ自体が、「みんなに考えてもらいたい」という彼女の思惑通りになったとも言えるのだが、しかしそれらは彼女が心の中で用意していた「答え」と合致するものだったのだろうか。

私には、そうは思えなかった。

「先天性ミオパチー」と「先天性四肢欠損」という同じく重度障害者として生きてきた者として、彼女からの“宿題”に、私も答えてみようと思う。

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「乙武洋匡の七転び八起き」
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